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『わたし、定時で』高評価でも視聴率イマイチ… お仕事ドラマの難しさ

『ショムニ』『ハケンの品格』……従来のお仕事ものとの違い

 従来のお仕事ものと言えば、『ショムニ』や『ハケンの品格』など、びっくりするような個性的なキャラがメインであったり、現実にはあり得ない設定であることが定番でした。そのおかげで、どんなに共感性のあるテーマやエピソードを扱ってもフィクションと割り切れ、安心してストーリーに入り込むことができました。  また、特異なキャラクターや設定でなくとも、『リーガルV』や『相棒』などマスコミ・教師・医師・弁護士ら専門的な職業を扱った作品は、その職業に従事している人を除けば、“どこか別の世界の話”という認識でストーリーに入り込むことができます。上司に怒られる、徹夜で仕事、など、だれでも仕事上で経験していそうなことが描かれても、ストーリーを構成するいちエピソードと割り切れてしまう強みがあり、自分と同一視することを避けられているのです。
 しかし、『わた定』はそのどちらでもありません。等身大の普通の人が普通の企業(少々マスコミに近い業界ではありますが)で働き、誰もがありがちなトラブルに遭遇する――ドラマの視聴者が、誰もが自分と重ね合わせることができるような設定です。  このことが、共感の声がある一方で、仕事から帰ってホッとするべき時間に現実逃避できず「見ていて疲れる」という意見があがってしまう要因なのでしょう。

『わた定』の社会派ドラマとしての役割

 たしかに、「疲れる」「ホッとできない」などと、現実と切り離せない視聴者がいるのもわかります。しかし、そうつぶやく人々の中にも、「この苦しみは自分だけじゃないんだ」と気づき、救われた部分も多少はあるはずです。  自分らしい働き方を貫く主人公に背中を押される人だっているかもしれません。社会派ドラマと括ってしまえば堅苦しくなるかもしれませんが、そんな、「ドラマを見るだけで疲れてしまう人がいるこの世の中」を変える力が『わた定』にあるのではないでしょうか。 『わた定』は軸となる仕事トラブルのエピソード以外にも、婚約者・諏訪(中丸雄一)や元カレ・種田(向井理)と結衣の恋の行方、結衣と連絡を取り合う謎の人物、部長の福永(ユースケ・サンタマリア)の暗躍など……気になるところばかりです。  それだけに今後は「考えさせられる」「こんな人いるよね、こんなことあるよね」というような『スカッとジャパン』的な問題提起エピソードの羅列だけで終わってしまわないためにも、作品としての素晴らしさを左右するストーリーの展開の仕方に期待したいです。 <文/小政りょう> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
小政りょう
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦
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