この日も、大きなリスクを冒してまで肝臓の腫瘍を特定すべきか、否かという大きな「決断」を迫られました。私は主治医に尋ねました。
「もし検査をして腫瘍が特定できたら、どんな治療をすることになりますか?」
主治医の回答は明快でした。
「今の薬では効かないので、もっと強い抗ガン剤を使う必要があります。そうすると
嘔吐や下痢、食欲不振など強い副作用が出る可能性も上がります。もちろん中にはほとんど副作用が出ない子もいますが……」

かつての散歩コースをカートで
つい数週間前までの下痢を繰り返し、ぐったりとして食欲がなく、立ち上がることもできなかったときのケフィが目に浮かびました。二度とあんなケフィは見たくありません。数時間おきに繰り返す下痢や嘔吐の手当だけで、家族も消耗し、疲れ切ってしまいます。私はもうひとつ質問をしてみました。
「副作用が出にくい子の特徴とか犬種などはあるんでしょうか?」
主治医はほんの数秒沈黙してから、口を開きました。
「これはあくまでも『私の経験から』の話として聞いていただきたいのですが、副作用が出にくい子は、抗ガン剤もあまり効かない傾向にあるような印象はあります」
リスクを冒して検査をし腫瘍を特定できたとしても、その先にまっているのは副作用に苦しむか、薬が効かないという現実。……それを聞いて、私の心は決まりました。
「これ以上のガン治療はしません。だから検査も必要ありません」
それを聞いた主治医はゆっくりとうなずき、こう答えました。
「分かりました。そうなると、
これから1~2か月の間に『何か大きなこと』が起きるかもしれません。そのことだけは覚悟しておいたほうがよいと思います」
「それはケフィが天寿をまっとうするということですか?」
尋ねたかった問いを私は飲み込みました。あまりにも恐ろしくて、口にしたらそれが本当になってしまうような気がして、とても確認する勇気がなかったのです。
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<文/木附千晶>
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