愛犬のつらい抗ガン剤治療。お願い、少しでも食べて|ペットロス Vol.25
<16歳の愛犬を亡くした心理カウンセラーが考えるペットロス Vol.25>
心理カウンセラーの木附千晶さんは、16年一緒に暮らしたゴールデン・レトリーバー「ケフィ」を2017年1月に亡くしました。
ケフィはメニエール病などと闘い、最後は肝臓がんのために息を引き取ったのです。前後して3匹の猫も亡くし、木附さんは深刻なペットロスに陥ってしまいます。自分の体験を、心理カウンセラーとして見つめ、ペットロスについて考えます(以下、木附さんの寄稿)。
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抗ガン剤を増やした影響はすぐに現れました。ケフィの白血球の値が、どんどん下がってしまったのです。「毎日1錠」だった抗ガン剤を「1錠と2錠の日を交互に」しただけ。ほんのわずか増やしただけなのに、1週間で正常値の7200から正常値にぎりぎり入る5300に、さらに1週間後には4000まで落ちました。
激しい下痢にも襲われました。獣医師たちの意見は概ね次のようなものでした。
「薬を増やしたことが下痢の原因とは考えにくい。ただ、抗ガン剤によって白血球が下がっているので下痢が治りにくくなっている可能性はある」
確かに、ケフィは子どもの頃から季節の変わり目によく下痢をしました。そう考えると、下痢は「いつものこと」なのかもしれません。しかし、ケフィの体は「いつも」とは違い、免疫力が極端に低下していました。例年は数日で止まる下痢が、2週間以上たっても止まりませんでした。
食欲も落ち、ケフィはみるみる衰弱していきました。今までは下痢をしても食欲はありました。ところが今回は、下痢が始まって1週間もたつと、ほとんど何も口にしなくなってしまったのです。
「この犬が食べなくなるのは、死ぬときですよ」
ケフィが子犬の頃、大食漢のケフィに訓練士さんが言った言葉が何度も耳にこだましました。ほほえましいエピソードだったものが、足かせのように感じられました。
例年は下痢が止まるまでの間は、かぼちゃ、鶏ささみ入りのおかゆを少量ずつ与えるなどして胃腸を休ませていました。でも、今回は状況が違います。悠長に回復を待っていたら衰弱死してしまいそうでした。
私は、犬用流動食や「老犬でも食いつきがいい」と評判のシニアフード、栄養補給剤を買い集め、次々とケフィに与えました。自分からは食べてくれないので、注入器で食べ物を流し込みました。
ぐったりしたケフィを抱えながらミルクを飲ませていると、前年に亡くなった愛猫・でんすけ(でん)の最期がオーバーラップしました。
「死に逝くときはお腹を空っぽにすると聞いたことがある」
「でんもそうだった」
「もうケフィも長くないのではないか」
そんな不吉な考えが襲ってきて気が遠くなりそうでした。私は心のなかで何度も手を合わせ、でんにお願いしました。
「もう少しだけ、ケフィを私の側に置いておいて。でんのところに連れて行かないで」
夜間に緊急搬送された翌日でさえ、家族と鍋を囲んで大喜びしていたケフィ。あれからまだ半月しか経っていないのに・・・・・。横たわるだけのケフィを見ながら私は思いました。
「ケフィはもう眠りたいのかもしれない。無理に食べさせようとするのは、生き続けて欲しいと思うのは、私のエゴに過ぎないんじゃないか」
「いつものこと」でも、「いつものように」はならないケフィ
「食べなくなるのは、死ぬとき」
愛猫・でんすけの最期と重なる
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