秋の花粉症のウソホント。春との違いや対策は?医師に聞いてみた
「花粉症」と聞くと春先のイメージが強いですが、実は今の季節も要注意なんです。
ただ、春の花粉症ほど話題に上らないため、「この症状は花粉症? ほかのアレルギー? それとも風邪?」「予防法は春の花粉症と同じで大丈夫?」など、曖昧な点も少なくありません。
そこで、NPO花粉情報協会理事で「医療法人社団左門ふたば会 ふたばクリニック」院長の橋口一弘先生に、「秋の花粉症」やこの時期に起こりやすいアレルギーについてお話を聞きました。2回に分けてお伝えします。
――「秋の花粉症」の原因となる草花の種類や、発症しやすい時期を教えてください。
橋口一弘医師(以下、橋口)「秋の花粉症を引き起こす草花の種類は春よりも多く、たくさんありますが、代表的なのは、ブタクサやヨモギ、キリンソウなど、公園や河川敷に生えているような、外来種を含む雑草です。例年は8月から10月ごろにかけてピークとなっていましたが、ここ数年は気候変動の影響から、その年によって違います。昨年は秋らしい気候がほとんどなく急に寒くなったので患者さんも少なめでしたが、今年は多いですね」
――「春の花粉症」との違いはありますか?
橋口「症状はほとんど同じです。ただ、春はスギやヒノキなどの木の様子で始まる時期や花粉の量が分かりますが、秋の花粉症は雑草が多く、雨で一気に成長したり、急な冷え込みで枯れてなくなったりするので、予測ができないという点が違います。とはいえ、スギ花粉は200キロ先まで飛来するのに対し、秋は雑草の周辺のみと、花粉の飛散エリアにも違いがあるため、症状が軽い場合が多く、ランニングや犬の散歩のコースを変えるなどちょっと注意すれば防げて、患者数も春ほど多くありません」
――秋の花粉症は食物アレルギーも引き起こすと聞いたのですが、本当ですか?
橋口「秋に限ったことではありませんが、花粉症は、咽頭や唇が腫れたりかゆくなったりする『花粉―食物アレルギー症候群(PFAS)』を発症する可能性があります。PFASは、野菜や果物の根源にかかわるたんぱく質が、花粉症の原因となる草花の花粉抗原と似かよった構造を持っていると、これらの野菜や果物を摂取することで起こります。
例えば、ブタクサ花粉症はメロン、スイカ、きゅうり、バナナなど、ヨモギ花粉症はセロリやニンジン、マンゴーなどを未加熱で摂取すると、PFASを発症する可能性が高いです。そばアレルギーなどのように、そのものに対する反応ではないので、症状が出るのは口腔だけというのが特徴ですね」
――PFASは、花粉症の症状が出ているときだけ気を付ければいいのでしょうか?
橋口「PFASを起こす人は、そのアレルゲン自体にアレルギーがあるので、花粉症やPFASの症状が出ていないときでも、対象の食物は口にしない方がいいですね。加熱したりするとタンパク質の構造が変化しますので食べることができる可能性がありますが、無理に食べることはしない方がいいと思います」
――秋は花粉症以外のアレルギーも起こりやすいと聞きますが、どんなアレルギーに注意が必要ですか?
橋口「秋口は、花粉症以外にも、寒暖差やハウスダストによるアレルギーが増える季節です。ただ、ハウスダストは慢性化している状態が“普通”になっている人も多く、朝方の冷え込みや冬物衣料や布団による埃などで症状が悪化する機会が増えて『秋に発症する』と感じているだけなので、季節を問わず注意する必要があります」
――秋口に花粉症やアレルギーの症状が出やすいタイプなどはありますか?
橋口「もともと鼻粘膜が乾燥しやすい体質の人や、夏場に昼間も寝ているあいだもエアコンで冷えた部屋で過ごしていた人、夏風邪を引いた人などは、鼻粘膜の傷みから花粉症やアレルギーを起こしやすいです」
――花粉症やアレルギーと風邪の症状は似ていますが、見分けるコツはありますか?
橋口「花粉症やアレルギーは水っぽい鼻水が続きますが、風邪の場合は時間の経過とともに鼻水が粘っこくなっていき、のどの痛みや咳、発熱などの症状も伴ってくるので、2日目以降の症状で判別することができます。始まりの症状は同じなので、初日はたとえ医者でも見分けがつかないんですよ」
――2日目以降の様子が見分けるポイントなんですね。
橋口「ただ、前述の通り、秋の花粉症は期間が短い上、原因となる草花の近くに行かなければ発症しづらいので、花粉症にかかっていることに気づいていない人も多いんです。例えば公園で運動した後に症状が出ても、たまたま台風などで花粉がやんで症状が治まれば、一時的に体調を崩しただけと思うでしょうし、風邪だと思って飲んだ風邪薬の抗ヒスタミン剤で花粉症の症状が落ち着けば、まさか花粉症とは思わないでしょう。毎年この時期に風邪を引くという人は、花粉症の可能性を疑ってみてもいいかもしれません」
――秋の花粉症で受診したほうがいい目安や、どのような治療法があるか教えてください。
橋口「日常生活に支障が出るようなら受診したほうがいいですね。秋の花粉症の治療法も、春と同じ薬物療法が基本です。注射による皮下免疫療法もあるにはありますが、秋の花粉症は春より症状が軽い場合が多く、そもそも花粉症と認識していない人も少なくないため、あまり用いられることはありません。
なお、スギ花粉症の治療法で最近注目されている舌下免疫療法は、日本ではスギとダニ抗原しか認可が下りていません。ヨーロッパやアメリカでは夏や秋の花粉症の原因である雑草の舌下免疫療法がおこなわれていますが、日本では残念ながら認可される予定はないようです」
第2回では、花粉症対策とケアについて詳しく聞いていきます。
<文/千葉こころ、取材協力/ふたばクリニック院長 橋口 一弘先生>
■橋口一弘先生プロフィール
1982年慶応義塾大学医学部を卒業後、同年に慶応義塾大学病院耳鼻咽喉科に入局。大学時代から扁桃疾患を中心に研究をはじめ、その後も鼻疾患、特にアレルギー性鼻炎の治療を中心に研究を続けた。済生会神奈川県病院、北里研究所病院などを経て、2011年よりふたばクリニックの院長に。現在も、自身が設計・開発に関係した、人工的にスギ花粉を一定濃度で飛散させることができる花粉症調査研究施設(OHIO Chamber)で、スギ花粉症治療に関する研究を続けている。
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千葉こころ
自由とビールとMr.Childrenをこよなく愛するアラフィフライター&編集者。
人生後半戦も夢だけは大きく徒然滑走中