後半で静かな盛り上がりを見せたのは、埼玉グランドホテルの高橋会長。毎年のように三味線の伴奏で清元節を披露するのですが、上皇陛下のようなお顔立ちと風格で、他の出場者とは一線を画す存在感です。「待ってました~!」という声が飛んでいました。そして社員が「高橋会長日本一!」という看板を持って佇んでいます。この歌謡祭の空気を引き締めるのになくてはならない存在です。
続いて初参加の小鹿野町の森町長が小鹿野歌舞伎風に梅沢富美男の「夢芝居」を披露し、イーグルバスの谷島社長が松田聖子の「瑠璃色の地球」をパワフルに歌い上げました。バックで応援団のパフォーマンスを披露した男子高生のひとりが空気を読んで「
将来イーグルバスで働きたいです」と言っていました。
そうやって臨機応変に人に合わせられるのが埼玉県人の特徴かもしれません。
さいたま市の清水市長は財津和夫の「切手のないおくりもの」を歌ったのですが、選曲といい、子どもたちと一緒になって黄色いTシャツ姿で一瞬24時間テレビかと思いました。がんばって歌っている感といい、かなりやり手な感じでした。選挙で強そうです。戦略的にさいたま市をブランディングしてくれそうで期待が高まります。
今回は女性出演者が、ケアハウス和みの里の山中理事長と、清水園の清水社長の二人もいて、埼玉県の政財界で女性が進出しているのは嬉しいです。
ところで今回ひそかに注目が集まっていたのは、新しい大野知事の歌唱力。上田元知事は大トリで失敗したりしていましたが、逆にそれが話題性を高めていました。また、埼玉政財界人は、突出して歌がうまい人がいないことでユルい調和や一体感が保たれているという一面が。うますぎると埼玉政財界ではやっていけないのかもしれません。
かつてバンドマンだった大野知事の歌がプロ級だったりしてバランスが崩れてしまわないかという懸念もありました。しかし実際歌が始まると、安心しました。
たよりなさげなコブクロの「轍-わだち-」のメロディが心の隙間に入っていきます。おしゃれすぎない安心感。これで埼玉政財界の平和は保たれました。
県知事の「みんなが安心で安全で暮らせる埼玉県にしたい」という抱負が心に響き、安心感に包まれた歌謡祭でした。
<文&イラスト/辛酸なめ子>
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