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Official髭男dismの「恋つづ」主題歌、大ヒットの実力と“残念ポイント”

 佐藤健(30)が演じるエリート医師・天堂の“ドS”っぷりにハマる視聴者が続出した、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)。3月17日に最終回を迎え、早くも“天堂ロス”の声も聞かれるほど、大好評でした。  そんなドラマに花を添えたのが、大人気のバンド「Official髭男dism」が歌う主題歌「I LOVE…」。ビルボードチャートでも2位にランクインし、アップルミュージックのCMでもオンエアされていますよね。  昨年の大ヒット「Pretender」の勢いもそのまま、ハイクオリティな楽曲と演奏力は、やはり頭一つ抜けた存在と言っていいでしょう。

改めてヒゲダンの地力を見た

 まず印象的なのは、細かな刻みのドラムのハイハットです。ゆったりとした横揺れのリズムでも間延びしないのは、全編に渡ってこの切れ味が保たれているから。  メロディラインにもメリハリが効いています。Aメロに当たる部分では、音程と息継ぎの余裕をもたせて、ストーリーを聴き手になじませるように語りかける。ただし、抑制されたトーンでも地味なわけではありません。音楽が動いているという実感を得られる力に満ちているからです。ボーカル・藤原聡(28)の反射神経が成せる業でしょう。  そうしてためこんだパワーをサビで爆発させる手法は、ヒゲダンならでは。特に、<まるで水槽の中に飛び込んで溶け込んだ絵具みたいな イレギュラー>という、お得意の比喩を絡めた一節はお見事。メロディの最高点に合わせて、「イレギュラー」というワードで種明かしをする手際の良さに、恐れ入りました。  表現欲求や情緒に頼らず、ソングライティングに根拠を追求する姿勢に、改めて彼らの地力を見た思いです。 Official髭男dism

<I Love>と言えないのに、<高まる愛>とあっさり説明する謎

 しかし、だからこそ、「I LOVE…」には見過ごせない不備があることを指摘しなければなりません。それは、歌詞の主体が揺らいでいること。しかも、楽曲のテーマに関わる部分なので、下手をするとぶち壊してしまいかねない。そんなミスを犯しているのですね。  どういうことかというと、まず歌詞の中に登場するキャラクターを見てみましょう。彼(彼女)は、<I Love なんて 言いかけてはやめて I Love I Love 何度も>という状況にある。つまり、正面切って“愛”という言葉を言えない、もどかしい思いを抱えているわけですね。  ところが、突如サビで現れた作詞者らしき人物が、<高まる愛>と、あっさり説明してしまうのはどうしたことでしょう?  タイトルの「I LOVE…」に対して、うまく愛を表現できないという反語的なテーマだったはずなのに、いとも簡単に使われてしまった「愛」という単語によって台無しになっているのです。  なぜこんなことが起きてしまったかといえば、キャラクター主体で進めていたストーリーの中に、作者が介入してしまったからなのですね。早い話、状況を整理、説明したいという事務的な欲求が働いてしまったわけです。聴き手への配慮が裏目に出てしてしまったと言えばいいでしょうか。  それが、“歌詞の主体が揺らいでいる”イコール、楽曲の構造に不具合が生じている、という意味なのです。
「I LOVE...」

「I LOVE…」(ポニーキャニオン)

マジメさゆえのミステイク?

 もちろん、ヒゲダンが真摯に音楽と向き合っていることは痛いほど伝わってきます。唐突に「愛」なんていうNGワードを使ってしまったのも、マジメさゆえのミステイクでしょう。  しかし、聴き手にとっては、アーティストが生真面目であるかどうかは、大した問題ではありません。むしろ、音楽面でも歌詞の面でも、分かりやすさを最優先するおもてなしの精神に、少し息苦しさを覚えるきらいもあります。 “髭男”のネーミングには、髭が似合う歳になっても音楽を楽しんでいたいという願いが込められていると聞きました。だとすれば、これからは少し適当になる勇気を持つのもいいのではないでしょうか。  いつまでも「Pretender」のテンションをキープすることは、不可能なのですから。 【関連記事】⇒大ブレイク中、島根発バンド「Official髭男dism」はどこが凄いのか <文/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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