男の前で萌えてはいけない【シングルマザー、家を買う/15章・後編】

⇒前編はコチラ  そして当日。リフォームし、生まれ変わった家にとにかく感動し、隅々まで見ながら、「これはいくらかかったんですか!?」「これはどこのメーカーなんですか!?」と部屋のあちこちを指さし、金額やら何やらを聞いてくる。さすが熱心なラガーマン、自社のリフォームではここまでのものをこの値段ではできないと感涙しながら話してくれた。  普通のリフォーム会社ではマージンを取られるため、同じようなリフォームをしても倍額の500万円くらいはかかるという。もちろん、扉やキッチンもすべて新品になるが、ちょっとの工夫でこんなにも節約できることを、すごく感動してもらえたようだ。

男の前で萌えてはいけない

 渡邊篤史ばりに我が家を探訪したあと、ラガーマンは壁にかけてある工場の写真に食いついた。そう、私は自他ともに認める“工場萌え女子”なのだ。この趣味をわかってくれる人はなかなかいない。  そこにきて、「吉田さん、これはどこの工場ですか?」とラガーマンが聞いてくれるもんだから、テンションが上がりきった私は、パイプの機能美や、夜景より昼間のほうが素敵なこと、川崎より鹿島にワクワクすること、一番好きなのが火力発電所なことをベラベラ話しはじめてしまったのだ。  これは、一番いけないパターンである。  でも、少し緊張していた私は、工場の話をすることでその場をなんとか盛り上げようと頑張ってしまったのだ。これは合コンで誰も興味のない自転車や車の話をして総スカンをくらう男性のパターン!  しかし、私はこのとき、ラガーマンが自分の大好きな工場の話を聞いてくれていると勘違いし、テンションが上がりっぱなしで、話をやめることができなかった。そう、車は急に止まれないのだ。アドレナリン、全開である。そして、5分ほど話した後、ラガーマンの焦点が定まっていないことに気がついた。あぁ、やってしまった……! 「す、すてきなご趣味ですね」 シングルマザー、家を買う/15章 聞いた人の応答としては100点である。というか、これしか返しようがなかったのだろう。  もう、やけっぱちになった私は、この流れで「ラガーマンには本当に頑張ってもらってすごく感謝しているので、お礼に一度一杯奢りたいんですがいかがですか?」と聞いてみた。  すると、「いかがですか」と言い切らないタイミングで、「いや、そういうのはダメだと決まっているので!」と手を前にだされて断られたのだ。  ……だよね。この日ほど、自分が大好きな工場を恨んだことはない。  ラガーマンがお祝いのカタログギフトをささっと置いて帰った後、私は工場夜景の写真を見ながらこう誓った。  もう、男の前で工場の魅力は語らないと。何があっても、決して。 <TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 【吉田可奈 プロフィール】 80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky) ※このエッセイは毎週水曜日に配信予定です。
吉田可奈
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、出版社に入社、その後独立しフリーライターに。音楽雑誌やファッション雑誌などなどで執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。長男に発達障害、そして知的障害があることがわかる。著書『シングルマザー、家を買う』『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』Twitter(@knysd1980
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