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知ってた?ディズニーの名曲、作者は“究極のひねくれ者”ランディ・ニューマン

『トイ・ストーリー3』DVD

 ディズニー/ピクサーの人気作品の音楽がフルオーケストラで演奏される、ピクサー・イン・コンサート。『トイ・ストーリー』、『モンスターズ・インク』、『カーズ』といったところからはもちろん、『モンスターズ・ユニバーシティ』が世界初演とあって話題を呼んでいます。  愛知での公演を皮切りに、先週末は大阪フェスティバルホール、そして2月28日、3月1日は東京Bunkamuraオーチャードホールで開催されます。

ウルトラクイズも、TDLで聴いたあの曲も

 ところで、この映画の心温まるストーリーに負けない、老若男女を問わず郷愁を誘うメロディの作り手について、皆さんはご存知でしょうか。彼の音楽は、東京ディズニーランドへ遊びにいけばどこかで必ず耳に入り、『アメリカ横断ウルトラクイズ』では出場者が勝ち抜けを決めるたびに再生されるジングルとして使われていました。  最近では『名探偵モンク』の主題歌と言えば、曲と歌声が浮かぶ方もいらっしゃるかもしれませんね。  ランディ・ニューマン。アメリカのシンガーソングライターであり、80年代半ばからは映画音楽も数多く手掛けています。しかし、一般的な知名度よりも業界内での評価が高く、あのボブ・ディランをして「芸術の域に達している。ランディは音楽を知っているよ」と言わしめるほどの実力者なのです。 ⇒【動画】http://www.youtube.com/watch?v=qNyimUXGIFQ http://www.youtube.com/watch?v=qNyimUXGIFQ (TDLでもよく耳にする『トイ・ストーリー』のテーマ曲、『You’ve got a firend in me』。メガネの人がランディさん)  さらに、先日のスーパーボウルのハーフタイムショーに出演したブルーノ・マーズのような若手も「僕のソングライティングヒーローだ」とツイートするなど、キャリアの初期から長年に渡り尊敬を受け続けてきた存在なのですね。

夢の国に連れていかれる黒人奴隷の歌

2011年、『トイ・ストーリー3』でアカデミー作曲賞を受賞したときのランディ・ニューマン

 数多くの美しい旋律を世に送り出し、手練れの同業者からも一目置かれる。さぞかしロマンティックな人格者で、多くを語らない物静かな職人という像が浮かんでくるかもしれません。  しかし、このランディ・ニューマン。ひとたびアニメ音楽から離れ、自分のソロワークに戻ると、現実への徹底した観察から生み出される潤沢な絶望を、乾いた笑いへと突き落とす、いわば“神も仏もありゃしない”ような曲ばかりを書く、究極のひねくれ者なのです。  そんなランディの代表曲として忘れてはならないのが『Sail Away』です。 ⇒【動画】http://www.youtube.com/watch?v=USGmyVDEAdU http://www.youtube.com/watch?v=USGmyVDEAdU  どこかの国の国歌のようなホーンとストリングスのオーケーストレーションに乗せて歌われるのは、奴隷として売り飛ばすために、アフリカからアメリカへと黒人を呼び寄せるブローカーが繰り出す誘い文句。 <アメリカに来れば食事にありつくために、わざわざジャングルを駆けずりまわって足を痛めることもない。ワインでも飲みながら、イエス様最高とかなんとか歌っとけ。アメリカ人になったら楽しいぞ>(筆者意訳 ※1)。  もちろん、アメリカが黒人を商品として取り寄せ、扱い、酷使してきたことへの批判的な視点から書かれた曲ではあります。しかし、本当にそれだけで話を終わらせてしまってよいのでしょうか。  もしかしたら、アフリカの黒人たちの中には、まさにこのブローカーが言うような誘い文句を、ささやかな希望だと信じて海を渡ってきた者もいるのではないか。だとしたら、その人たちを笑い、アメリカを茶化すことは、本当に正しいことなのだろうか。 『Sail Away』という曲が恐ろしいのは、笑いを交えてアメリカを批判的に見ているからではありません。ランディ・ニューマンの視線は、騙されることと希望を抱くこととが表裏一体であることを暴き出します。

対立と差別こそが現実である

 この紙一重の危うさが、彼の作風を貫く基本線であります。  アメリカ北部の都市による南部への蔑みに対する、貧しい白人からの反撃を歌った『Rednecks』は、さらに痛烈です。 <俺ら貧乏な白人 日に焼けて首が真っ赤っか ケツの穴と地面の穴の区別もつきゃしない クロんぼの首根っこは俺らが押さえつけてるんだ>(筆者意訳 ※2)  そうして、北部の都市に点在するハーレムを、<檻の中での自由を謳歌するクロんぼ>(※3)だとおちょくるのですね。当然のことながら、彼の意図は黒人を揶揄することではありません。同時に、黒人を揶揄する貧しい白人を揶揄することでもありません。対立と差別こそが現実であるという、冷徹な認識を示しているのです。  作者であるランディは、貧しい白人というキャラクターを使って、そのことを浮き彫りにします。しかし、その醜悪な現実を改善しようなどという甘言に、ランディは見向きもしません。いつの時代も、醜さと愚鈍こそが、事実なのです。 ⇒【動画】http://www.youtube.com/watch?v=2nGw_vAnqPI http://www.youtube.com/watch?v=2nGw_vAnqPI  そういう人間が、トイ・ストーリーの主題歌『You’ve got a firend in me』(いつでも君を助けるよ 筆者意訳)やモンスターズ・インクの主題歌『If I didn’t have you』を作り、歌っているのだと考えると、また聴こえ方が変わってくるのではないでしょうか。  たしなみとしての悲劇や、娯楽としての堕落に陥ることなく、かといって「仲間がいれば冒険できる!!」と無責任にまくしたてることもせず。地に足の着いた希望を提示することが、子供に対して肯定的な価値観を育むのだとしたら、まず絶望と醜さのある場所を明らかにする必要があります。 「何百万ドルという金が費やされていたら、普通の曲だって書くさ」と語るランディですが、その“普通”が、醜さと愚鈍を回避することで生まれた良識の結晶であることは、言うまでもありません。  小さい子供から『You’ve got a friend in me』をリクエストされると、「失せろクソガキが」と心の中でつぶやくランディ・ニューマンですが、ディズニー/ピクサー作品にとって、彼の果たす役割は小さくないものだと言えるでしょう。 ※1 『Sail away』 In America you’ll get food to eat  Won’t have to run through the jungle And scuff up your feet You’ll just sing about Jesus and drink wine all day It’s great to be an American ※2 『Rednecks』 We’re rednecks, rednecks And we don’t know our ass from a hole in the ground We’re rednecks, we’re rednecks And we’re keeping the niggers down ※3 『Rednecks』 he’s free to be put in a cage <TEXT/石黒隆之 PHOTO/Sbukley>  
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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