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歌手・JUJUが語る流儀「自分のためではなく、聴いてくれる誰かのための歌を」

 切ないバラードを筆頭に、小気味よいダンスチューン、本格的なジャズやスナックで聴きたい昭和歌謡などもこなすマルチな歌手として、幅広く愛されるJUJU。話題のドラマや映画で彼女の歌声が流れてくることは今や当然になっているが、NYで修業していたデビュー前~デビュー後の数年は知られざる“不遇の時代”があった。

曲の物語には添っても己は決して添わない。歌い手・JUJUの流儀

JUJU

撮影/恵原祐二 スタイリング/林 峻之 ヘアメイク/蒲生亜希子 ジャケット/Room211、ハット/JAMES LOCK(CA4LA ショールーム)、他スタイリスト私物

「誰にも届かないし次のリリース予定も立たない。それでも『こんなタイプの曲を作ってくれ』って毎週のように言われて、ゴールのないマラソンを続けてるみたいでしたね。誰が聴いているかもわからずに歌うのが苦しくて、もう契約を切ってくれないかと思うことも。だけどデビューして2年、シングル『奇跡を望むなら…』を出したら、初めて聴いてくださった方からお便りをいただいて。人生の中でも感じたことのない喜びがありましたね」  自分のためではなく、聴いてくれる誰かのための歌を。歌手・JUJUのスタイルはこうして誕生した。指針が一貫していたから、歌えるジャンルはどんどん多彩になっていく。大事なのは、主観で突っ走らないことだ。 「私はシンガー・ソングライターではく、まず歌うことが好きなので。だから、歌のストーリーにはすごく添うけど、自分は添わないようにする。私、優等生の姉がいたんですけど、幼い頃からいつも比べられていじけてるニヒルな子供だったんですよ。歌は大好きで、歌でなら姉にも勝てた。でも何をやらせてもできるわけじゃない。そんなふうに自分のことも俯瞰で見る癖が付いてるのかもしれないですね。主観で歌いすぎると若干気持ちの悪い歌になってしまう気がしますし(笑)」  バラードを歌うとき最大限に発揮される寂しさや憂いのムード。本名の彼女はそこから少し距離を置く。コンサートや音楽番組で少しずつ解禁されていった素の表情は、歌声からは想像できないくらいサバけたものだ。 「とあるラジオのDJからは『どんぐりころころ』を歌っても悲しい曲に聴こえる声だって言われて、実際に『犬のおまわりさん』を歌ってみたら、迷子どころか失踪事件!! 歌のイメージが先にあるのか、こんなふうに喋りだすとガッカリされるんですよ。でもつくってる部分は一切ないし、生活は至って普通。早起きの宵っ張り。趣味は読書で、家の中は本だらけですね」

聴いてくれた方が主人公になる歌を心がけてきた

JUJU

『YOUR STORY』

 お気に入りの作者を聞けば、小路幸也、よしもとばなな、村上春樹、山口恵以子、石田衣良など、立て板に水のごとくに話しだす。物語が好きだからこそ、歌うときはストーリーテラーであることを強く意識するそうだ。最初のベストアルバムが『BEST STORY~Love stories~』『BEST STORY~Life stories~』の2枚。このたびの2作目が『YOUR STORY』と題されているのも印象的だ。 「あなたの人生の主題歌はなんですか? って問いたかったんですね。私が歌ってきた一曲一曲はすべて物語だし、歌って短編映画みたいなものだと思う。聴いてくれた方が主人公になれるような歌を毎回心がけてきたし、デビューからずっとそれを続けてきたので。自然とこのタイトルになりました」  なお、今回のベスト盤の中にはJUJUを主人公とした曲も入っている。正確にいえば、平井堅がJUJUのことを考えながら作詞作曲を手がけた一曲。始まりはこんな偶然だった。 「私、お酒が大好きで、飲むペースがむちゃくちゃ速いんですよ。よく行くお店でウイスキーのロックをクイクイ飲んでたら、そこに偶然平井さんがいらして。『JUJUって普段そんなやさぐれてんの?』『いや、幼稚園の頃から私はやさぐれてますよ』『そのキャラ、もっと世の中に出したほうがいいよ!』って話になって。最終的にその日は、私と平井さんで床に座り込んで飲んでたらしいです(笑)」  かくして生まれたのが2年前にリリースされた「かわいそうだよね(with HITSUJI)」。一見は美しいバラードだが、平井は歌詞で格付けしたがる女心のぶざまさを遠慮なく暴く。それをJUJUは余裕で受け止め、情感たっぷりに歌い上げた。自分自身を脇に置き、“職業・歌手”に徹する姿勢は今どき珍しいのかもしれない。 「昭和の人ですから(笑)。私には作詞作曲の才能がないし、人に恵まれてなければここまで続かなかったでしょうね。お酒が好きなのも、ベタな言い方ですけど、そこでのコミュニケーションがあると思っているからです。出会いがないと波も風も立たないし、凪の状態って一番心に良くないので。若い人や大先輩と話すことで気づくことが増えていくし、そうなると仕事の内容も充実していきますしね。私も、デビューした16年前より、確実に今のほうが楽しいことが増えてますね。私のおばあちゃんは『嫌いなコの誕生日会には行くな』って言ってましたけど(笑)」  人生のモットーは“よく食べ、よく飲み、よく笑う”。ひとりぼっちで過ごすだけでは知らない世界を、ふいに心が震えたり動いたりする物語を、JUJUは今日も貪欲に欲している。 【JUJU】 18歳で単身渡米し、ジャズ、R&B、ヒップホップ、ソウルといった音楽を学ぶ。’04年に「光の中へ」でメジャーデビュー。3rdシングル「奇跡を望むなら…」を皮切りにヒットソングを連発し、シンガーとして確固たる地位を築く。無類の読書家、お酒好きとしても知られている。4月8日にベストアルバム『YOUR STORY』を発売 <取材・文/石井恵梨子 撮影/恵原祐二 スタイリング/林 峻之 ヘアメイク/蒲生亜希子 ジャケット/Room211、ハット/JAMES LOCK(CA4LA ショールーム)、他スタイリスト私物>
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YOUR STORY』 デビュー16年目のベストアルバム。タイトルには「聴いた人の心に添う物語を届けたい」という思いが込められており、4枚組52曲を収録。ソニーミュージックより4月8日に発売。3960円
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