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朝ドラ『エール』休止で、1話から再放送。イケメン3人の“だらだら感”が見もの

「福島三羽ガラス」を早く羽ばたかせて!

 鉄男は新聞記者をやっていたが東京に出てきたものの(その間、悲恋エピもあり)、裕一と最初に組んでつくった「福島行進曲」が売れず、おでん屋をやりながら成人小説を書いたりしていた(この一節には笑わせてもらいました)。久志は音と同じ東京帝国音楽学校在学中は「プリンス」と呼ばれもてはやされながら、卒業したらただの人という感じに。
NHK連続テレビ小説「エール」

画像提供NHK

 帝都劇場のオペラの主演の座を後輩に先を越されてしまう(中断前の第13週)。久志が裕一の契約しているコロンブスレコードの新人歌手募集に応募して、ここからようやく「福島三羽ガラス」の時代か……というときに放送中断。  早く三羽ガラスを羽ばたかせて! こんなことなら、最初からずっと冴えない3人がいつも集まってうだうだ語っているような、岡田将生と松坂桃李と柳楽優弥主演、宮藤官九郎脚本の「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系 2016年)みたいなドラマをやってほしかったなあなんて、おでん屋で3人が集まって会話しているのを見ながら思ってしまうのであった。
宮藤官九郎「ゆとりですがなにか」KADOKAWA/角川マガジンズ

宮藤官九郎「ゆとりですがなにか」KADOKAWA/角川マガジンズ

 すでにそういう側面はある。裕一のモデル・古関裕而が昭和を代表する名作曲家であるので、裕一が真摯に音楽に打ち込むドラマなのかと思っていたが、天才的な才能をもって流行歌をたくさん生み出した作曲家の、決して気負ってない日常(きれいな女の人には弱い、しっかり者の妻に頼ってる、子供には甘い、辛いことからは逃げがち、計画性はあまりない……など)のほうに焦点が当たっているような印象を受ける。  偉人の偉人たるところをあえて描かない意欲作。それはそれでいい。なにしろ、もはや昭和の価値観は通用しない世の中である。パワハラ、セクハラ、モラハラにあっても耐え抜いて幸福を勝ち取るみたいなことはありえない。辛いことからは逃げていい。無理しなくていい。周囲の人たちと気遣いあいながら穏やかに生きていく。それが令和時代。  なので、裕一も鉄男も久志も、一応時代設定は昭和初期、戦前ながら、無理して頑張ることを美点としてごりごり描かず、のんびりと。その代わり、3人が集まってだらだらしている会話を楽しく描くことが、脚本家の腕のみせどころになってくる。テンプレ的な、苦労のすえ勝利展開を描くよりも、登場人物が集まって会話するだけのほうが難しい。「エール」は難しいほうに挑んでいるのである。

濃い俳優をふたりも出して来たことが画期的

 楽しいドラマという点では、13週は、三羽ガラスの話に加え、プリンス久志とスター御手洗(古川雄大)のミュージカル俳優対決もあった。御手洗も「ミュージックティ(―チャー)」として「エール」の前半を盛り上げた人気キャラ。今回の再放送でまた彼の魅力を堪能できるだろうか。どこまで再放送が続くのかまだわからないのだが、御手洗パートは楽しいのでリピート歓迎である。  古川は東宝ミュージカル「モーツァルト!」のタイトルロールを、プリンス久志こと山崎とダブルキャストで演じたこともあり、事務所も同じ(ついでに言えば、裕一の父・唐沢寿明も同じ事務所)。ドラマに舞台畑の濃い演技をする俳優がひとり出てきて、やや浮き気味に演じて盛り上げるという趣向は以前からあるが、「エール」では濃い俳優をふたりも出して来たことが画期的。  ミュージカルのダブルキャストのように互いに個性を放ち合う面白さ(ダブルキャストは共演しないが)。東宝ミュージカル俳優がこんなふうに集結するのは古関裕而が東宝ミュージカルの曲を作っていて、そのつながりがあるのかなあという気もしないでない。 「エール」の放送が再開されたのちには、戦争がはじまって裕一は軍歌を作ることになるはず。そうすると、登場人物ものんびりもしていられないだろう。  そこをどう描くか気になるが、代表作「オリンピックマーチ」をつくる前に、裕一が東宝のミュージカルや演劇の音楽をつくるエピソードをやって、山崎育三郎ほかミュージカル俳優たちをぜひとも生かしてほしいと期待している。ミュージカルのプリンスの最高峰・井上芳雄に出てほしい。 連続テレビ小説「エール」 月~土 8:00(NHK総合)ほか <文/木俣冬> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
木俣冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami
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