レイコさんが、9歳年上のショウイチさんと出会ったのはネット上だった。仕事に関係した、あるコミュニティのオフ会で初めて顔を合わせた。
「たくさん人が来ていたんですが、彼とはネット上でやりとりをしていたので、顔がわからないのに、あ、この人だと思ったんです。彼のほうもすぐにわかったって。最初から惹かれ合うものがあったんだと思います」
その日は携帯の電話番号を交換しただけで別れた。だがレイコさんは、翌日すぐ、ショウイチさんに連絡をとっている。非常に積極的だ。
「私、モテたこともないし女として自信もない。それなのにそのときは、どうしても彼に会わなければいけないような気持ちに駆られたんです。電話すると彼はすぐ私だとわかって、その日に会うことになりました」

お互いに、その日、結ばれることがわかっていたような段取りだった。あとから知ったのだがショウイチさんは非常に多忙な人で、その日に時間がとれることなどめったにない。レイコさんも、その日はたまたま夫が早く帰って子どもたちのめんどうをみてくれると言ったので彼に会うことができたのだ。
ふたりは会ってすぐホテルへ直行した。ひとときもムダにできないような気持ちだった。抱き合ったあとは帰らなくてはいけない時間が来るまで、話し続けた。夫があまりおしゃべりなタチではないので、レイコさんは久しぶりに「会話をする」楽しさを味わった。
「たった1回でもいいと思いました。夫以外の他の男性と関係をもてば、夫への視点も変わるかもしれない。そんな期待もあった。だけど実際には、ショウイチさんに会う前より惹かれてしまった。だからこの先、どうしたらいいんだろうと帰宅途中で考えていました。
だけどショウイチさんのほうは、帰り道で、私とのつきあいは長くなるだろうと思っていたそうです」
そして関係は、ショウイチさんの思ったとおり、続いていく。最初は戸惑っていたレイコさんも、だんだん「身も心も」ショウイチさんになじんでいった。
「私、それまでセックスなんていいものだと思ったことがなかったんです。男性との関係においても、やはり父のことがあるからでしょうね、大声を出す人は苦手で、基本的に男性が怖かった。
夫はまじめだけど、ときどき大きな声を出すことがあるんです。仕事でせっぱ詰まっているときなんだと思うんですが、それが私は怖くてたまらなかった。夫自身、すぐ気づいて『ごめん』と言うんだけど。
ショウイチさんは話し方も穏やかで、言葉数が多い。私が拗(す)ねたりいじけたりすると、きちんと向き合って話してくれる。ショウイチさんと話すと、私はいつも心の中がすっきりするんです」
愛情が募(つの)っていくと、自分も彼も既婚であることが悲しくなっていった。