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Vol.16-1 「妻が風呂に有毒ガスを…」殺しあう寸前までいった夫婦の悲劇

「あの女はやめとけ」

 亜子さんは筒本さんのマンションに入り浸るようになった。風呂の排水溝を丁寧に掃除したり、甲斐甲斐しく凝った料理を作ったり。その頃の亜子さんの写真を見せてもらうと、髪型はショートカットだが、顔の印象はPerfumeのかしゆかに似ている。かなり小柄でスレンダー。「自分を頼ってくれる、妹気質でかわいらしい押しかけ女房」といった印象だ。ファッションもどんどん筒本さんのテイストに寄せてきた。それがまたかわいいと感じたそうだ。 「気持ちのアップダウンが多少激しい子でしたが、当時は僕を口撃したり、ヒステリーを起こしたり、不機嫌をぶつけてきたりするような人ではなかったんです」 写真はイメージです ただ、少しだけ引っかかることがあった。亜子さんは交際中からパニック障害を患っていたのだ。  パニック障害とは、唐突に強い不安が襲って動悸や発汗が起こる「パニック発作」、パニック発作が起こるかもしれないと恐れる「予期不安」、発作が起きそうな状況や場所をあらかじめ避けようとする「回避行動」などで構成される症状群のこと。うつ病をはじめとしたさまざまな精神疾患の入り口ともなりうる。 「でも、それで僕が困ることはありませんでした。たまに不安になるとか、特定の状況で『ちょ、ちょっと待って……』と言われる瞬間はありましたが、落ち着いて対処すれば問題なかったんです。……結婚する前までは」  この頃、筒本さんの父親が末期ガンで余命いくばくもない状況だった。それを知った筒本さんは、亜子さんとの結婚を決意した。 「父が生きている間にね。これが最後の親孝行ってやつかなと」  筒本さんは亜子さんを両親に紹介し、既に同棲していること、結婚の意志があることを伝えた。ところが……。 「後日、僕がひとりで父を見舞いに行くと、病床の親父が小声で僕に耳打ちするんですよ。『望、あの女はやめとけ』って。母が亜子に悪い印象を持っていて、そのことを父に言ったらしいんですが、詳細はわかりません。とにかく、父は亡くなるまでずっとそう言い続けていました」  しかし、既に心が固まっていた筒本さんは父親の意見には耳を貸さず、亜子さんと入籍する。結婚式は行わなかった。

働かない妻に毎月20万円

 結婚直後から亜子さんは変わりはじめた。 「亜子は専門学校を卒業後、就職した映像関係の会社が長続きせず、短期間に何社も転職を繰り返していましたが、結婚したタイミングですっぱり仕事を辞めてしまいました。僕の収入で生活が保障されているから、働かなくてもいいと踏んだんでしょう。当時の僕は羽振りがよったので、すべての生活費を僕が出したうえで、亜子には食費と小遣いとして毎月20万円渡していました。今思えば、渡しすぎですよね……」  毎日忙しく働きに出る筒本さんを横目に、亜子さんは日がな一日、近所のツタヤで借りてきた海外ドラマのDVDを見続けていた。 「あるとき亜子が駅前のヨガに通い出したんですが、『1泊2日のセミナー合宿があるから20万円ちょうだい』って言われたんです。たった1泊で20万はさすがにおかしいと思って問い詰めると、著名なヨガの先生を招待してるからお金がかかる。できれば知り合いも誘ってほしいと言われていると。完全に宗教じみたやつです。どっぷり精神世界の入り口になってるような、やばい団体だと直感しました」  筒本さんは亜子さんを連れてヨガ教室に怒鳴り込み、ヨガ教室を辞めさせた。
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父の葬儀に対するまさかの言葉
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