母はいつも父の悪口を言っていた。ミキコさんも父を憎み、その憎悪をエネルギーにして生きてきたところがある。当然、男性には不信感が大きく、恋愛もうまくいかないことが多々あった。
「私、5年前からひとりで暮らしているんです。母からきちんと自立したかった。当時、母は58歳でまだまだ元気だし、いつか老いたらめんどうみようとは思っていました」
ほとんど実家には近寄らず、友人関係を構築し、自分のために時間を使うことを学んでいったという。
「ところが今年の正月、1年ぶりくらいに実家に戻ってみたら、なんと母が父と暮らしていたんです。もう、びっくりして、いったいどういうことなのとふたりに詰め寄りました」
ふたりは3年前に再会、そして1年前に父が病気になり母を頼ってきたのだという。母は寂しかったのだろう、父を家に入れてしまった。婚姻届は出していないが実質的には同居を続けてきたという。
「親の離婚に振り回されてきた自分の人生が、バカバカしくなりました。ずっと母に同情してきたのに、結局、割りを食ったのは私だけじゃないですか」
頭に来たミキコさんは家を飛び出し、以来、父とも母とも連絡をとっていない。母からはたまにメッセージが来るが無視しているという。
「うちみたいに離婚して母と暮らした場合、母の父に対する悪口は彼女自身の後悔の念みたいなものなんですよね。それを鵜呑(うの)みにして父を恨んではいけない。自分自身が父親の非道さを目の当たりにしているならいいけど、私みたいに8歳くらいじゃよくわかりませんよ、夫婦のことなんか」
どんでん返しを食らったミキコさんの怒りは今もおさまっていない。
<文/亀山早苗>
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