Entertainment

宇垣美里「ああ、この世は地獄だ」/映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。 宇垣美里さん そんな宇垣さんが公開中の映画『82年生まれ、キム・ジヨン』についての思いを綴ります。
映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

●作品あらすじ:結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われる平均的な30代女性のジヨンは、ある日から他人が乗り移ったような言動をするようになります。  正月に夫の実家に帰省したジヨンは1人孤独にキッチンで家事をし、リビングで盛り上がっている義母や義妹たちへの気遣いに疲れていました。そこで急にジヨン自身の母親が乗り移ったかのように義母に向かって「奥さん、うちのジヨンを実家に帰してくださいよ。お正月に娘さんに会えてうれしいですよね?私も娘に会いたい」と語りだします。  その時の記憶はすっぽりと抜け落ちているジヨンに、夫のデヒョンは傷つけるのが怖くて真実を告げられないでいます。なぜ彼女の心は壊れてしまったのか。誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児と、今に至るまで誰かの娘・誰かの妻・誰かの母としてしか扱われてこなかった彼女の人生を通して、見えてくるものとは……  ひとりの女性キム・ジヨンの人生を通して、女性の人生に当たり前のようにひそむ困難と生きづらさを描く本作は、韓国で130万部突破、日本でも20万部という翻訳小説としては異例の大ヒット作の映画化です。 「トガニ 幼き瞳の告発」「新感染ファイナル・エクスプレス」に続き、3作目の共演となるチョン・ユミとコン・ユが演じる注目作を、宇垣さんはどう見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です)
チョ・ナムジュ 訳:斎藤真理子『82年生まれ、キム・ジヨン』筑摩書房

チョ・ナムジュ 訳:斎藤真理子『82年生まれ、キム・ジヨン』筑摩書房

ごく平均的な女性が味わう“ぬるま湯の地獄”に拳を握りしめた

 途中からずっと涙が止まらなかった。彼女が何かに打ちのめされるたびに握りしめた拳。手のひらには爪の痕がくっきりと残った。これは感動の涙なんかじゃない。血を吐くほどの悔しさと身を燃やし尽くすほどの怒りの煮こごりだ。  ’82年生まれに多い名前、キム・ジヨン。平均的な彼女の人生は、国を越えた私たちにも馴染み深い平凡な日常の連続だ。  女のコなんだからおとなしくしなさいと言われて育ち、長期プロジェクトからは結婚や育児があるからと排除され、正月は当然のように夫の実家で延々と家事。会議の前のお茶くみはもはや疑問にすら思わない。でも、痴漢されたのは本当に私のスカートが短かったせいだろうか? 男より稼ぎが少ないのは本当に私の能力が足りないせいなんだろうか?
82年生まれ、キム・ジヨン

『82年生まれ、キム・ジヨン』より

 やがて少しずつ狂い始めるジヨンに追い打ちをかけるのが、“家庭的”で“協力的”な“優しい”夫の存在だ。  彼はジヨンを案じるけれど、彼女が洗濯物をたたむ横でビールを飲んでいるだけだし、彼女が仕事を見つけてくれば「いつ働けと言った?」と逆上する。君のために育休を取る、と言いだしたときは目が飛び出た。誰の子どもを育ててるつもりなんだろうか。君をここまで追い詰めた気がして……と泣きだしたときはもう笑うしかなかった。貴様に泣く権利なんてない。  感動のように思えるラストもまた、特権階級に支えられなければ女は自己実現もできないのだと突きつけられた気がした。
82年生まれ、キム・ジヨン

『82年生まれ、キム・ジヨン』より

 ああ、この世は地獄だ。丁寧に丁寧に、美しい映像で描かれたぬるま湯の地獄に、漠然とずっと苦しかったもの、腹が立っていたものの正体が見えた気がした。 『82年生まれ、キム・ジヨン』 ’19年/韓国/1時間58分 監督/キム・ドヨン 出演/チョン・ユミほか 配給/クロックワークス ©2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、モデル・女優業や執筆業などに幅広く挑戦している。
Cxense Recommend widget


あなたにおすすめ