「おふくろに口答えするな」娘の健康より母親の機嫌を優先する夫
ところが去年の秋、娘の七五三のときのことだ。ユリカさんは娘に着物を着せるのが不憫だと思い、近所の神社へお参りにいくだけ、あるいは写真を撮るだけにしようと考えていた。
「というのも娘はその少し前に、風邪をこじらせて肺炎になり2週間も入院したばかりだったんです。だから体に負担がかからないようにしたかった。お参りにも行かなくていいとさえ思っていました」
だが七五三の数日前、義母から立派な娘用の着物が届いた。入院前に頼んでしまったのだろうからしかたがないが、お正月に着てもいいのではないかとユリカさんは夫に言った。
「すると夫は『ダメだよ、せっかくの七五三だろ。おふくろも楽しみにしているんだから』と。娘の体調を考えてと言っても聞く耳を持たない。すぐに義母に電話をしていました」
義母はすでに美容院も手配済みだと言ったそうだ。ユリカさんがふだん行ったこともない近所の美容院だった。
「どうしてそうやって全部勝手に決めちゃうんですかって、私は電話で義母に言いました。すると夫が怒りの形相で私から電話をとりあげたんです。おふくろに口答えするなって」
恐怖を覚えたユリカさんは、翌日、会社を休んで娘を実家に連れていった。そしてその2日後の土曜日に予定されていた七五三には行かないと夫と義母に宣言した。
「週末は私の実家でゆっくり過ごしました。娘にはまだまだ休養が必要だった。うちの両親も心配してくれました。いちばん大事なのは娘の健康ですから」
そしてユリカさんはそのまま自宅には戻らなかった。夫がやってきて帰るよう説得されたが、「娘の健康を度外視する義母と、そんな義母に従うことしかできないあなたは許せない」と敢然(かんぜん)と告げたという。
夫の母親依存は、つきあっているときはなかなか見抜けないものだ。だからこそ結婚すると一気に噴出してくる問題でもある。
どんなときもふたりだけで話し合うことを結婚前に誓い合ったとしても、ユリカさんのように結婚後に不快な思いをすることもあるだろう。だがユリカさん自身、「結婚できなくなるのが怖くて、夫は優しい人だと先輩の言い分を無条件に信じてしまったところはある」と言う。親への接し方も、あまり深くは考えていなかった、と。
結婚する前にはわからないことも多々あるが、おりに触れて彼の「親への考え方」を聞いていくしかないのかもしれない。そしてその言葉に不信感を抱いたら、もっと掘り下げて聞いてみる。
結婚後にわかって失望するより、結婚前にわかれば話し合ったり対処したり、あるいは別れて新たな人生を歩むこともできるのだから。
―シリーズ「
結婚の失敗学~結婚観・家族観すり合わせの失敗」―
<文/亀山早苗>
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