「彼の夢を応援したいの」バンドマンと結婚したら働かず努力せず浮気まで
自分と違う立場で、大きな夢を追う男性と応援したくなる。よくある心理だが、そのまま結婚してしまうのは、少し危ういものがある。応援したいのと彼の人生を背負ってしまうのとは大きな違いがあるからだ。
「夢追う男でいいじゃない」と思って結婚したものの、現在離婚を考えている女性の話をきいた。
「私、将来何になりたいという夢がまったくなかったんですよね」
そう言うのはユミさん(35歳)だ。子どものころから教育熱心な母に勉強させられ、中学から私立へ、そして有名私立大学を卒業した。
「そのまま就職活動で最初に内定をもらったところに就職して。自分の意志はどこへやら、という人生を送ってきたんです」
とはいえ、誰もが知っている有名企業に入り、仕事はそれなりに楽しいし、年に一度は海外旅行もしていた。周りからは羨(うらや)ましがられることもあったが、彼女自身は決して幸せを感じていたわけではないという。
「だって、やりたいことが何か、こんな夢がある、なんてことを一度も話したことがないんですよ。夢のない人生って満たされませんよ」
そんな彼女が29歳のときに出会ったのが、同い年のサトシさん。友だちに連れられて行ったライブハウスで出会ったミュージシャンだ。
「当時は5人でバンドを組んでライブハウスに出ていました。友だちは、そのバンドのヴォーカルのファンだったんです。サトシはベース担当。みんなアルバイトをしながら活動していました。
あるとき、友だちが彼らの打ち上げに参加することになったから一緒に来てと言われて。私はあまり興味がなかったんだけど友人のために行きました。そこでサトシと初めて言葉を交わしたんです」
サトシさんは、もうじきバンド活動をやめるつもりだと話した。5年つきあっている彼女と結婚の話が進んでいて、相手の両親にきちんと勤めない限り結婚を認めないと言われたからだと寂しそうに言った。
「5年もつきあっていたら情も移るだろうけど、あなたは本当にそれでいいの? 夢をあきらめていいの? 夢すら持てない人間だっているのに、と思わず言ってしまいました。
彼は驚いたような顔をしていましたね。初めて言葉を交わした人間にそんなことまで言われるとは思っていなかったんでしょう。でも私は夢があること自体がすばらしいと思ったし、羨ましくもあったので20代で簡単にあきらめてはいけないと思ったんです」
彼は「ふたりで話したい」と連絡先を教えてくれた。そしてふたりきりで会うようになり、1ヶ月後には彼は恋人と別れていた。
「彼は、子どものころからの夢をあきらめるところだった、ありがとうって感謝してくれて。もともと恋人に対しては、愛情より長くつきあった責任感のほうが大きくて、彼女がどうしても結婚したいと押し切られたんだと言っていました。
そのとき、彼は彼女の本当の気持ちをわかっていないのではないかとちょっとイヤな気持ちがよぎったのは覚えています」
彼の音楽に懸ける思いは本当だった。だが一方で、彼は「自分はこんなふうにくすぶっている人間ではない」とプライドも高かった。
「実績がないのにプライドばかり高いとうまくいかないよと言ったこともあります。怒るかと思ったら、彼はしばらく考えて、『ユミは痛いところを突いてくる』とつぶやきました。『僕の凝り固まった考え方を、全然違う視点から指摘してくれるからユミの存在は貴重だよ』とも言ってくれた。私は彼にとって特別の存在になったのだと実感がありました」
彼と一生、一緒に歩んでいきたい。ユミさんの気持ちは徐々に固まっていった。