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子宮頸がん「HPVワクチン」は打つべき?安全性や効果を医師に聞いた

 厚生労働省がHPV(子宮頸がん)ワクチンの積極的な接種勧奨を控えていることで、避けられたはずの子宮頸がん患者が約1万7000人、死者が約4000人発生するとの推計を10月22日、大阪大学の研究チームが発表しました。
※画像はイメージです(以下、同じ)

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 日本では、HPVワクチンは対象年齢であれば無料でうてる「定期予防接種」であるにもかかわらず、現在“積極的接種勧奨の差し控え(国が積極的に接種をすすめない)”の状態となっています。そのため、いったいどんなワクチンなのか、国民が知る機会がとても少ない状況です。  そこで今回は、HPVワクチンについて正しい知識を広める活動をする医療者有志の会「HPV Vaccine for Me」の一員である、細部小児科クリニック院長の細部千晴先生に話を聞いてみました。

性交経験が一度でもあるなら、感染の可能性がある

日本小児科医会作成のポスター

日本小児科医会作成のポスター

――そもそも、HPVとは? 細部千晴(以下、細部):HPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頸がんの原因になる、どこにでもいるウイルスで、性交渉によって感染します。つまり、性交経験が一度でもある女性なら、誰でも感染する可能性があります。 ――子宮頸がんはどんな病気なんですか? 細部:子宮頸がんは子宮下部の「子宮頸部」にできるがんで、96%がHPVによるものだということがわかっていて、日本では毎年約1万人がかかり、約3000人が命を失っています。とくに妊娠・出産を考える20~40才でかかる人が多く、子どもを残してなくなる人が多いことから“マザーキラー(母親殺し)”と呼ばれている非常に悲しい病気です。 ――予防するには? 細部:定期的な子宮頸がん検診と、HPVワクチンの接種が有効です。子育てや仕事で忙しくて病院に行く時間がないという声も聞きますが、自治体によっては無料クーポンを発行していますし、昔に比べれば少しずつ有給休暇などが取りやすくなってきていると思うので、ぜひ検診に行ってもらいたいです。 ――子宮頸がん検診で異常が見つかるとどのような処置をするのでしょうか。 細部:がんになる前段階(前がん病変)である「異形成」が見つかると、子宮頸部を一部切り取る手術(円錐切除術)を行うことになります。病変の広がりによってはさらに広範囲での摘出(広汎子宮頸部摘出術)を行います。これらは妊娠する力を残す方法ですが、年齢的にもう妊娠は望まないということであれば子宮全部を取ってしまう「全摘出」という方法もあります。 ――妊娠する力を残す方法もあるのですね。 細部:はい。でも、「ちょっと取るだけでしょ?妊娠できるならいいじゃない」って、そんなたやすいものではありません。手術で取った組織や転移の有無などを調べて、それによっては放射線療法や化学療法を行うことになります。その後は、膀胱炎や腸炎を起こしたり、髪が抜ける、身体のしびれ、性交痛などのつらい合併症と闘うことになりかねません。

「子宮頸がんのリスクを63%低下させた」との調査結果も

――HPVワクチンとは? 細部:HPVワクチンには、2価(16型、18型)と4価(6型、11型、16型、18型)、そして9価(6、11、16、18、31、33、45、52、58型)があります。型というのはHPVの種類のことで、100種類以上あると言われていて、その型によって悪性化するものとそうでないものがあることがわかってきています。  日本では現在、2価と4価が「定期予防接種」として小6~高1の女性であれば無料で接種できます(厚労省が2020年3月19日に発表した「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う定期の予防接種の実施に係る対応について」により、高校2年生はこの対象となり定期接種として接種できる自治体もあります)。  ただ、国内で2020年7月21日に承認されたガーダシル9価ワクチンは、現状では定期接種になっていません。また、定期接種の年齢を過ぎると全額自己負担にはなりますが、接種は可能です。9価ワクチンを接種できる医療機関は、予防医療普及協会のウェブサイトでリストを見ることができます。 ――効果や安全性は証明されているのでしょうか? 細部:世界ではHPVワクチンの有効性や安全性について、すでに多くの論文で示されていて、子宮頸がんの一歩手前の異形成という状態を抑制することがわかっています。近年は「新潟スタディ」という日本人の調査でも同様のことが示されました。また、直近では2020年10月、スウェーデンのチームが「HPVワクチンが子宮頸がんそのもののリスクを63%低下させた」との研究成果を発表しました。  また、子宮頸がんワクチンという名前から、女性にしか関係のないものだと思われがちですが、HPVは口腔がん、咽頭がん、外陰がん、膣がん、肛門がん、陰茎がんなどの原因にもなるため、海外では男性にも打たれています。 ――HPVワクチンは定期接種の年齢(小6~高1)を過ぎた大人でも、効果があるのでしょうか。 細部:もちろん子宮頸がんの予防に有効です。性交渉でうつるものなので、検診で異常がなく、極端な話、もう一生セックスをしないということであればうつ必要はありませんよね。でも、たとえ既婚者であっても夫がHPVを持っていて、一度でも性交渉をすれば感染する可能性があります。逆に言えば、自分が相手にうつす可能性もあります。自分の身体を守るためだけではなく、性交渉の相手への思いやりの意味でも、HPVワクチンは必要だと考えます。
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自己負担で接種するといくらかかる?
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