1ヶ月間の間に、何があったのか。
「
実家の親からの洗脳です。後からわかったんですが、葉月の母親、つまり義母は、とんでもない毒親でした」

毒親(どくおや)とは一般的に、「子の人生に害悪を与える親」のことを指す。
「実は海外駐在中、葉月が僕に『
小さい頃、母からDVを受けていた』と話してくれたことがあります。その時は驚きましたが、『
今は全然気にしていない』と言ってあっけらかんとしていたので、あまり掘り下げて聞かなかったんですよ。でも、後で考えると、葉月は幼い頃からずっと母親の支配下にありました。結婚してからも、です」
毒親の中でも最もよく報告されるのが、「女親から娘に対する過干渉と支配」である。
「義母は、葉月が自分の思い通りにならないと気が済まない人なんです。葉月に友達がいない、あるいは友達というものを信じていないのも、そのせい。娘を自分の絶対支配下に置くためには、娘の周りの友人関係を排除するのが一番ですからね。もし何でも話せる親友がいたら、自分がいかに無茶なこと娘に要求しているかを、娘に気づかれてしまう。
だから
葉月が同級生と仲良くしようとすると、すぐ『あの子は信用ならない。あなたを陥れようとしている』と耳打ちする。葉月は小さい頃からずっと、義母にそうされてきました」
しかし不思議なのは、そこまで支配下に置いておきたいなら、なぜ葉月さんの結婚を許したのかということだが、谷口さんはそこにも明確な答えを持っていた。
「
葉月自身の『母親から自立したい』という意思の芽を、元から摘んでおくためですかね。一度結婚させて子供を産ませ、子供ごと葉月を囲ってしまったほうが、葉月を一生手元に置いておけると踏んだのかもしれません。葉月が身ひとつなら、親元から離れるのは簡単ですが、葉月がシングルマザーなら、母親の手助けなしには生活がたちいかない。精神的にも、経済的にも、親を頼らざるをえなくなる」
経済的にも、とはどういうことか。聞けば、結婚前の葉月さんは何ひとつ仕事が長続きしなかったという。そして葉月さんの母親は、谷口さんに常々「この子は仕事なんかできない」と言っていたそうだ。
「
子供の能力を潰す毒親の典型です。『自分の子はできない』と決めつけることで、『この子には私が必要だ』という自分の確信を強める。そして、できない子だと扱われ続けた子は、自己肯定力がゼロのまま大人になります。なにごとにも自信が持てない、卑屈な大人に」

葉月さんが結婚式をしたくないと強硬に主張した理由は、呼ぶ友達がいなかったからだけではない。自分なんかが「お姫様」として着飾られ、注目を浴びることが、とてつもない分不相応だと感じ、不快に思い、本能的に避けたからだ。
「自分に自信がない子は、ちょっとした困難や人との意見衝突をものすごい苦痛に感じ、傷つくので、学校や社会にうまく馴染めません。仕事も長続きしない。それを見た親は、『そらごらん、やっぱりあなたはできない子なの。私がいないと駄目ね』と言って、ますます子供を囲い込む。子供は子供で、自分が頼れるのは親しかいないという想いを強めるので、親元から自立するのはますます不可能になります。共依存関係ですね」