結婚して半年、レスに焦燥感を抱いた彼女は、そのことを彼に伝えた。彼は「結婚したらあなたが大事すぎて、どうしてもその気になれなくなった」と言うのだ。ふたりで話し合って人工授精を選択。すると1回で妊娠した。
彼女の妊娠がわかったころ、彼にさらなる変化が起こった。モラハラである。
「結婚したとき、気づいたことは何でも話し合おう、きちんと伝え合おうという話をしていたんですよ。あるとき、彼が片膝(かたひざ)立ててヒジをついてくちゃくちゃ食べているのが目について、『そういうのはやめようよ』と言ったら、彼が突然キレたんです。『おまえの常識をオレに押しつけるな』と声を荒らげて。
自分にダメ出しをされると急にキレる。洗濯機に洗濯物を放り込んだまま、洗濯が終わって何時間もそのままにしているので、『干さなくてもいいからせめて外に出しておいて』と言うと、『本当にかびが生えるのか、エビデンスがあるのかよ』って」
彼女は不機嫌な彼を見たくなくて、だんだん何も言わなくなっていく。彼が不機嫌にならなければ相変わらず、楽しい時間は過ごせるのだ。彼女は彼を怒らせないよう気をつけ、あるときはビクビクしながら妊娠期間を過ごした。
ところが娘が産まれてから、彼の症状は悪化していく。怒鳴る頻度が増えたのだ。おそらく妻の気持ちや関心が娘にのみ向いていることを察したのだろう。大人になりきれない男性だったのかもしれない。
決定的だったのは、アサミさんが体調を崩しながらも生後2ヶ月ほどの娘にミルクを飲ませようとしていたときのこと。
休日だったが夫は飲みに出かけていた。夜更けに彼女は作ろうとしていた粉ミルクをうっかりばらまき、ついでに食器も割ってしまう。娘のギャン泣きに気をとられていたからだ。床に散る粉と陶器の破片、娘の泣き声、思うようにいかない体。
彼女自身がパニックになりかけたとき、夫が帰宅。酔った夫は「なんだこれ。何やってんだよ」と不機嫌な声を出した。彼女は事情を説明すると同時に、「すぐ掃除する。その間に……今日、私ほとんど何も食べてないの。何か買ってきてくれない?」と頼んだ。
「オレが帰るまでに片づけておけよ、暇なんだろ。それになんでおまえの尻ぬぐいをオレがしなきゃいけないの?」
夫はそう言って手伝ってくれようともせず、彼女の食事の心配さえしてくれなかった。
「翌日、あれはないよと冷静に言ったら、『妻に思ったことを言って何がいけない』『オレの言葉で傷ついたと言うけど、それはあなたの問題でしょ』『オレはうまくやってる。自分のことは自分で何とかしろ』とまったく思いやりのかけらもない言葉を畳みかけられました。もう無理だなと思った瞬間です」