彼女は子どもを連れて家を出た。その後、夫の親も交えて何度か話し合いを持ったがラチが明かない。それでも彼女は、あの「彼と一緒にいて楽しかった日々」を忘れられなかったし、彼のことが好きだという気持ちも残っていた。
「仲良くしようよと言ったこともあるんです。もう無理だと思いながらも、もう一度だけと思って言ってみた。すると彼は『オレはあなたと仲良くするつもりなんてないよ。オレと娘は仲良くする。あなたと娘も仲良くする。それでいいじゃないか』と。
いつからそんな気持ちでいるのかと尋ねたら、『家族になったときからずっとこうだよ』と。彼にとって妻は透明人間みたいなものなんでしょうね。人権も存在もない。家のことを滞(とどこお)りなくやって仕事もして子どもも育てて、夫の愚痴もすべて受け止めて。私はサンドバッグみたいだとつぶやいたら、それの何がいけないのか、と」
大好きだった彼へのひとかけらの愛情さえなくなった彼女は、そのとき離婚を決めたという。
大きくぶつかりあう経験があったほうが結婚後に活かせるのかも
家族になったら変わってしまう男性を、結婚前に見抜くのは至難の業だ。彼の両親は仲がよく、義母が義父にぽんぽん言いたいことを言っていたという。そんな両親を見て育った夫だからこそ、自分は妻に牛耳(ぎゅうじ)られまいと思ったのだろうか。
それでも、結婚前に「理想の夫婦とは」「理想の家族とは」について彼と話し合っておくのはムダではないだろう。そこに彼の“上から目線”を感じたら、さらに納得できるまで話し合うこともできる。
アサミさんは結婚前に大きなケンカはほとんどなかったと振り返る。結婚を視野に入れているなら、大きくぶつかりあう経験があったほうがその後に活かせるのかもしれない。
―シリーズ「
結婚の失敗学~結婚観・家族観すり合わせの失敗」―
<文/亀山早苗>
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