Entertainment

“結婚しない幸せ”の描き方が爽快!ドラマ『恋する母たち』の秀逸なラスト

まりと丸太郎の関係で心配なこと

 そしてまりと丸太郎は晴れて婚姻届を提出する。実態に加えて型式も整ったかっこうだが、この関係、本当にずっと続くのだろうかと個人的には疑問が残った。まりが彼を、ずっと「丸太郎さん」と呼んでいることも、その疑問が生じた原因のひとつ。  噺家の妻が、家で芸名を呼ぶはずはない。本名で呼ぶのが現実だろう。ドラマの中の話だからと言われればそれまでだが、それでも何かがひっかかるのだ。彼女にとって、人生を見直すきっかけをくれたのは、あくまでも芸人の「丸太郎」であって、本名の「〇〇さん」ではないのかもしれない。噺家・丸太郎と素の本人の間に何ら乖離がないならそれでいいが、24時間、噺家でいるわけでもあるまい。素の〇〇さんの顔が表出したとき、まりにそれを受け止める気概があるかどうか。まりが再び、お買い物チャンネルの仕事を始めることもあいまって、この夫婦には今後一波乱あるのかもしれない。

いろいろな愛の形、自分の気持ちに正直に決めたい

 そして最終的に、適度な距離感をもって接することになったのが、杏(木村佳乃)と斉木(小泉孝太郎)のカップル。  結婚したものの、杏が流産したこともあって、ふたりの関係はぎくしゃくする。自分の気持ちを伝えるのが苦手な斉木と、ついつい干渉的になってしまう杏との関係は、「好きだけどうまくいかない」典型的なものかもしれない。そもそも、ふたりの配偶者が駆け落ちしたことで知り合ったという、心の中のマイナス感情で惹かれあったふたりで、そこから抜け出せないまま結婚してしまったのではないかと思う。  同病相憐(あわ)れむような感情を、愛情だと錯覚してしまったのかもしれない  それでも、杏は人として斉木を敬愛していた。だからこそ、提案するのだ。仕事関係でともに歩いて行こう、と。  斉木も同じようなことを考えていた。彼が作った杏の名刺には「秘書」と書いてある。このふたりの関係は、やはり併走ではなく、一歩下がった杏の存在を斉木が必要としているという意味で、ここも何か釈然としないものが残る。もちろん、男女の関係性など当人たちがよければそれでいいのだが。  いちばん自由で「らしい」結果に落ち着いたのは、優子と赤坂のカップルなのかもしれない。それは常に優子が主導的に見えたからだ。そして優子の判断が、赤坂にとってもいちばん幸せな結末になっている。  もちろん、この後、赤坂が同世代の女性に走ったとしても、優子はまた新たに歩いていくはずだ。そんな優子の生き方がいちばんすっきり晴れやかに見えたのは、今の時代の女性たちにそうあってほしいと願う個人的な老婆心なのかもしれない。 <文/亀山早苗>
亀山早苗
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
1
2
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ