「
3か月後から始まるドラマが全く決まっていないということもよく聞く話ですね。クランクインまでのスケジュールが無くて、たった数日で脚本を流れ作業のように書き上げなくてはならなかったり、内容の良し悪しではなく現場の状況や権限を持った人の一言で直さなければならなかったり……。
僕の場合はドラマのように主演俳優が口をはさんできたのではなく、
原作者からの注文にかなり苦労した経験があります」
Aさんによると、制作費などの都合で入れることができないとプロデューサーが判断したシーンを決定稿寸前で入れて欲しいと言われ、板挟みで悩んだとか。しかし何とか書き上げ、事なきを得たようです。
だからこそ、北村有起哉さん演じるプロデューサーの東海林が2話で発した「発注に応えるのがプロの脚本家」というセリフが身に染みたといいます。
Aさんはさらに話を続けます。
「主演俳優からの修正を要求するプロデューサーに『考えるのは脚本家であって俳優ではない』と言い放った、新人天才ライターの如月翔(小越勇輝)にも感情移入して心がヒリヒリしてしまいました。如月がカン違いしていたように、
僕もデビュー当初はそうでしたから。
脚本家は作家や表現者として十分尊重してもらえると思いきや、実はそうでもないんです。大御所や別の分野で売れている作家さんなら話は例外かもしれませんが、新人ならなおさらです」
一般的な仕事と同じで、実績を積み重ねていくほどコツや現場の状況が理解できたり、チームワークが構築されて、自分の書きたいことを表現しつつ、制作側にも歓迎されるホン(脚本)が書けるようになるのだといいます。
才能のある小説家や漫画家が、プロデビュー1作目で華々しくヒットを飛ばし作家として名を馳せる人がいるのに対し、専業脚本家でそのような人物がいないのは、こういう背景があるからでしょう。
このドラマについて前のめりに語っていたAさんでしたが、
あまりにも現実的すぎるため今後観るのが辛いとのことです。自分にも吉瀬美智子さんのような手に職を持ちながらも自分を支えてくれる女性にが現れてほしいと笑っていたのが印象的でした。Aさんのよき出会いと、今後の活躍を陰ながら祈るばかりです。
<文/小政りょう>
小政りょう
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦