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6か月の赤ちゃんまでレイプ被害に。コンゴ人女性の性被害が“遠い話”ではない理由

レイプ加害者へのインタビューも

ムクウェゲSTILL01――現地では、レイプの加害者である男性たちにもインタビューされていますが、どこか他人事のような彼らと向き合うなかで思うこともあったのでは?  彼らを見ていただくとわかると思いますが、あまり罪の意識もなく淡々と話をしているので、私も驚きました。というのも、彼らには「自分たちも被害者だ」「命令に反対していたら自分が殺されていた」「仕方がなかった」という意識が根底にあるからです。話を聞きながらこの問題には加害と被害の二面性があることに気付かされました。 ――加害者たちは、現在どのような生活を送っているのでしょうか?  刑務所から出てきたあとはだいたい仕事がないので、細々と都会の隅っこで暮らしている人が大半です。なぜなら、村に帰れば被害者の家族から報復を受けるでしょうし、武装勢力にいたことを村人たちに知られているので、帰りたくても村に帰ることができないからです。  彼らにも学校に行きたいとか、仕事をしたいとか、お母さんと一緒に暮らしたいとかいろんな夢があったんですが、それを武装勢力によって中断させられたので、罰せられるべき存在ではあるけれど、同時に被害者でもあるんだと思いました。彼らもまた、決して幸せではないのです。 ――これほど危険な場所へ取材に行くことに対して、監督自身は怖さを感じることはなかったですか?  地元の人たちの意見をよく聞き、危ないところは避けるようにしていたので、身の危険を感じることはありませんでした。安全対策はきちんとしています。ただ、私はこういう場所へ取材に行くときは、行きたい気持ちのほうが先にあるので、怖さを感じることはありません。

無関心は罪である

インタビューの様子

ムクウェゲさんにインタビューを行う立山監督

――では、ムクウェゲさんに取材を続けるなかで、感銘を受けた言葉があれば教えてください。  印象に残っている言葉は、たくさんありますね。たとえば、「遠くで起きていることに共感し、人のために行動しなさい」とか「悲劇から目を背けて知らない振りをするのは、犯罪者と共謀しているのも同じこと」「無関心は罪だ」といった問いかけは非常に重く受け止めました。暗殺未遂にあいながらも命がけで活動を続け、象徴として世界に向けて発信するムクウェゲさんだからこそ、この状況を変える大きな力になっていると感じています。 ――監督自身がムクウェゲさんとの出会いから学んだことは、どんなことですか?  日本から遠い場所で起きている問題でも、実は自分たちとつながっているんです。清潔で快適な日本にいる私たちが手にしているのは、インドやバングラデシュで安い賃金で作られている洋服やコンゴの鉱物で作られたスマホなど。世の中には、そういった世界の構図のようなものが存在しています。それに対して毎日思いをはせることは難しいですが、まずは知って、自分たちにできることはないかと考えることが大事だと思います。 ――間接的に日本も関わっているという事実に衝撃を受ける観客も多いと思いますが、そのうえで私たち日本人がいまできることは何ですか?  この映画を観た人たちは、おそらく「日本人でよかった」「コンゴの人はかわいそう」という思いが沸き起こったあと、「じゃあ自分たちはどうしたらいいんだろう?」と考えるのではないかと思います。とはいえ、私たちが明日からスマホを使わなくなればコンゴの女性たちは幸せになるのかといったら、そうではないですし、世の中との関りを一切絶って、たとえば山にでもこもって自給自足の生活をして、スマホも使わない、洋服も自分で作ればいいのかといったら、それも違いますよね。  すぐに解決策を見つけることはなかなか難しいですが、社会はお互いにつながっていて、助け合いながらできているものなので、まずは知って、考えること。そして、人に話したり、ちょっとでも行動することで、世の中の不公正や不正義、不平等といったものが少しずつよくなっていくんだと私は信じています。
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国際社会、そして日本の責任とは?
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