彼は妻に離婚を切り出したが、妻は納得しない。サトミさんが呼び出され、3人で話し合ったこともある。
「申し訳ないとは言いません、と私は言いました。これは愛情の問題なので。経済的には彼が精一杯するはずです。私は彼と一緒になりたいんです。そういう言葉が彼の奥さんを刺激するのはわかっていたけど、それでも正直に真摯に伝えるしかなかった」
彼の妻は、「妻の座」を振りかざすようなタイプではないと彼から聞いていた。だから同じ女性としての目線であえて話したのだ。
妻が気持ちを整理して離婚に応じるまで、1年かかった。その間、サトミさんは彼と会っていたし、彼が彼女の家に泊まることも増えていった。
「ある日、彼から連絡があったんです。『今、離婚届を書いたところ。オレは文無しになるかもしれないけど、それでも本当にいい?』と。もちろんと答えました。ふたりで働けば生活はなんとかなる。一緒にいることのほうが大事だ、と」

彼が他の人に惹かれたら元妻のように自由にさせるつもり
彼と結婚したのは34歳のとき。ひとり娘も授かった。狭い2DKのアパート暮らしだが、それでも幸せだし、彼への愛情はみじんも減っていないという。
「彼は妻が引き取ったふたりの子に、よく会いに行っています。それもちゃんと言ってくれるから変な疑念はもたなくてすむ。彼の奥さんも私に気を遣ってくれているみたいだし。奥さんが彼を憎んではいないから、私も救われています」
不倫をする男は、きっとまたする、もともと世間に比べて倫理観が低いのだから。そういう声もあるだろう。だが、倫理観とは何かという問題も残る。結婚という形を続けることだけが倫理観ではないだろう。
「彼も私も、もしかしたらこの先、誰かに惹かれることがあるかもしれません。でももしそうなったら、私も彼の元奥さんのように、彼を自由にさせるだろうなという気はします。形だけ守っても、夫の気持ちがどうがんばっても戻ってこないとわかれば、離婚するしかないですもん。それは彼も私も覚悟しています」
こういう価値観をもっているなら、不倫も離婚もやむなしとなるのではないか。
小泉今日子さんと不倫が報じられた豊原功補さんも、つい最近、離婚が成立したと報じられた。彼らが婚姻届を出すかどうかはわからないが、このカップルもまた、愛情を優先させたのだろう。どちらかの愛がなくなれば、カップルとしては成立しない。たとえもう片方がどんなに愛情を残していても。
個々人の愛情を優先させる。いつか、こういう考え方が主流になる日もくるのかもしれない。
<文/亀山早苗>
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