Vol.20-1 不妊治療に300万円。心が壊れた妻は「これは何の罰?」と号泣した
機械のように「いいね!」を押し続ける罰
「もう無理、もう無理って、消え入りそうな声で言うんですよ。僕は、“いいね!”なんて押さなくてもいいじゃない。投稿を非表示にすれば……と言いかけたんですが、鋭い声で『できるわけない!』と遮(さえぎ)られました」
それは、なぜか。
「今までずっと“いいね!”を押してきた私が、突然押さなくなったら、友人や同僚たちはきっと変に思う。“何か”を、思う。それに耐えられないし、怖い。私はこれからもずっと、あの人たちの子供の写真を見て、機械のように“いいね!”を押し続けるしかない。そんなの無理だよう、無理だよう……って。子供みたいに泣きじゃくるんです」
深い溜息をついて、石岡さんは言った。
「咲が言うんですよ。これは何の罰? ねえ、何の罰?って」
「意識の高い夫婦だって思われるのが、死ぬほど嫌」
石岡さんは、いくら頭を回しても、かける言葉が出てこなかったという。
「1mmの反論も反証もできない、人間の完璧な絶望というものに立ち会いました」
石岡さんは言い淀み、そして絞り出すように言った。
「その時、思ってしまったんです。こんなことなら、子供なんて欲しがらなければよかったって」
石岡さんは今から8年前、40歳のときに急に子供が欲しくなった理由を話し始めた。
(次回につづく)
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga


