「つわりが苦しいなら堕ろしていいよ」夫の暴言に、悪気は全くなかった
素敵な恋人が、結婚したら暴言を連発する理由
果たすべき役割は夫婦によって異なるため、結婚生活を続けていく上では臨機応変に対応していかなければなりません。一方の妻は、理想としていた結婚生活は実現しないことに苛立ちます。夫のASDの特徴に気づけなかった結果、「こんなはずじゃなかった」との思いを募らせ、女性側は徐々に「カサンドラ化」していくのです。
夫は結婚後、パートナーの友人、実家、親戚との付き合いなど、果たすべき役割も増えます。何より妻が妊娠して子どもが生まれるとなれば、自由気ままに過ごせる時間は減っていきます。今度は父親という新たな役割が加わるのですが、どう果たせばいいのか、マニュアルが存在しないため、ASDの人には具体的な役割がよくわからないのです。
マッチングアプリなどで知り合い、相手のことをよくわからないまま数ヵ月の交際期間で結婚した場合にも、こういったケースが見られます。いくら共感してほしいと願っても、ASDの夫にとっては難しいのです。すると今度は「どうせ妻に怒られるから」という理由で、会話をしなくなり、やがて深刻なディスコミュニケーションに発展していきます。
「苦しいなら堕ろしていいよ」妊娠・出産で大きく傷つく
つわりがひどく苦しんでいるのに、夫は真剣な顔で「そんなに苦しいなら堕ろしていいよ」と声をかけます。また、妊娠中に「子どもがどうしても欲しいというわけじゃないよ」と言われ、傷つくケースもあります。
何より問題なのは、夫は決して悪気があるわけではないということです。ASDの特性である「相手の気持ちや状況を想像することが苦手」というところから生じているのです。ただ目の前に起こっている問題を解決しようとして、まったく配慮のない、常識では考えられない言葉や行動をとってしまうのです。まさに「木を見て森を見ず」状態です。
ではカサンドラに陥ってしまった場合、脱出するにはどうしたら良いのでしょうか。次回詳しく解説していきます。
<文/宮尾 益知>宮尾 益知
徳島大学医学部卒業後、東京大学医学部小児科学教室、自治医科大学小児科学教室、ハーバード大学神経科、国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年に「どんぐり発達クリニック」を開院。専門は発達行動小児科学、小児精神神経学、神経生理学。発達障害の臨床経験が豊富。近著に『子どもの面倒を見ない。お母さんとの会話が少ない お父さんが発達障害とわかったら読む本』(河出書房新社)などがある。
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