結婚前は「やさしい人だな」と思っていたのに、結婚した途端に豹変し、家政婦のように扱われたり、乱暴な言葉を吐くようになったという話をよく聞きます。ASDの人は事前学習能力がすぐれているため、結婚前には相手が喜ぶためには何をしたらよいか、よく研究します。インターネットで調べれば、情報は溢れています。しかし、
結婚後はそうしたマニュアルはほとんど通用しません。

果たすべき役割は夫婦によって異なるため、結婚生活を続けていく上では臨機応変に対応していかなければなりません。一方の妻は、理想としていた結婚生活は実現しないことに苛立ちます。夫のASDの特徴に気づけなかった結果、「こんなはずじゃなかった」との思いを募らせ、女性側は徐々に「カサンドラ化」していくのです。
夫は結婚後、パートナーの友人、実家、親戚との付き合いなど、果たすべき役割も増えます。何より妻が妊娠して子どもが生まれるとなれば、自由気ままに過ごせる時間は減っていきます。今度は父親という新たな役割が加わるのですが、どう果たせばいいのか、
マニュアルが存在しないため、ASDの人には具体的な役割がよくわからないのです。
マッチングアプリなどで知り合い、相手のことをよくわからないまま数ヵ月の交際期間で結婚した場合にも、こういったケースが見られます。いくら共感してほしいと願っても、ASDの夫にとっては難しいのです。すると今度は「どうせ妻に怒られるから」という理由で、会話をしなくなり、やがて深刻なディスコミュニケーションに発展していきます。
「苦しいなら堕ろしていいよ」妊娠・出産で大きく傷つく
「カサンドラ症候群」に陥ってしまう大きなきっかけに「妊娠・出産」があります。妻は誰よりも夫が支えてくれることを望みます。その時期に夫の言動が妻の常識から大きくズレていたため、「大切にされていない」と思ってしまう妻はたくさんいます。日常生活では夫がASDであることに気づかなくても、
妊娠や出産時の言動でその特性に気づくケースが多いのです。

つわりがひどく苦しんでいるのに、夫は真剣な顔で「そんなに苦しいなら堕ろしていいよ」と声をかけます。また、妊娠中に「子どもがどうしても欲しいというわけじゃないよ」と言われ、傷つくケースもあります。
何より問題なのは、
夫は決して悪気があるわけではないということです。ASDの特性である「相手の気持ちや状況を想像することが苦手」というところから生じているのです。ただ目の前に起こっている問題を解決しようとして、まったく配慮のない、常識では考えられない言葉や行動をとってしまうのです。まさに「木を見て森を見ず」状態です。
ではカサンドラに陥ってしまった場合、脱出するにはどうしたら良いのでしょうか。次回詳しく解説していきます。
<文/宮尾 益知>