涙ぐみながら「妻と子どもの幸せを考えています」と夫
調停の場では、妻と夫が交代で個室に入って調査委員と会い、それぞれの言い分を伝えます。
「聞けば、夫は調停委員に対してまず
『子どもに会いたいです』と涙ぐみながら訴えたそうです。『たしかに僕には至らないところがあって
妻に誤解を与えたかもしれませんが、DVは断じてしていません。一緒に暮らしていた頃も今も変わらず、いつでも妻と子どもの幸せを第一に考えています』といった内容を話したらしいんですよ」

やよいさんが調停の場で感情的にならないよう事実ベースで話していたのに対し、事実をねじ曲げながら情に訴えた夫。そんなやり口も夫の言い分も、おかしなことだらけでした。
「同居中、暴言を吐いたり物を投げたり壊したりする夫に何度やめて欲しいと訴えても、夫は反省どころか『事実を言って何が悪いんだ』『いらないものを処分しているだけ』と開き直るばかりでした。
反省や謝罪の言葉なんて一切なかったですし、子どもを連れて家を出て行ってからも、私や子どもの生活を心配する連絡はなかったんですよ。そもそも、DVで警察沙汰にもなっていますからね。夫が調停委員に言っていることは、事実とかけ離れています」
もともと、やよいさんの夫は外面(そとづら)がとてもよく、職場や仲間の間では
“優しい好青年”と評判も良いようです。
「実際に、夫のDV・モラハラを私の両親や共通の知人に相談したときも、『あの人がそんなことするの!?』と驚かれましたから。夫は家の外では物腰も柔らかく人当たりもいいです。わたし自身も夫の優しいところに惹かれて結婚したので、まさかDVを受けるとは夢にも思いませんでした」
そんな夫のひとたらし術が調停でも功を奏したようで、調停委員は回を追うごとにどんどん夫に肩入れしていきます。

「私は夫のDV・モラハラについて事実ベースで主張してきましたが、それでも調停委員は夫の言葉を信じ切っているようでした。『
売り言葉に買い言葉っていうこともある』『
夫さんはあんなに謝っているのに、あなたは一体なにがしたいの?』『
過去にこだわっているのはあなただけですよ?』となぜか私が説教され、まるで“わがままで我慢できない妻”のような扱いをされました」
夫の主張は事実とかけ離れていると調停委員たちにいくら訴えても、届かなかった――やよいさんは悔しそうに話します。彼女は、第三者がDVやモラハラ被害者を傷つけるこうした状況について、「
言うなれば“セカンドモラハラ”ですね」と表現していました。
調停委員には本当に色々なタイプがいて、対立する夫婦の言い分を上手にまとめるよう誘導してくれるケースもあれば、やよいさんのようなケースも残念ながらあるようです。