Vol.21-1「なぜ僕は“モラハラ夫”の烙印を押されたのか」東大卒男性の壮絶な生い立ち
高2まで「大学」があることすら知らなかった
「すると兄は、じゃあ東大に行けって言うんです。兄は心理学科の知識などなかったので、良くも悪くも適当に言っただけだったのですが」
しかし塾に行くような金はない。小林さんは自力で猛勉強した。学校の図書室が閉まったあとは予備校の自習室に潜り込み、そこも閉まると24時間開いているオフィスビルの非常階段で、深夜2時、3時まで参考書とノートを広げる日々。深夜に帰宅しても、母親は何も言わなかった。息子に無関心だったのだ。
現役合格は叶わなかったが、浪人中に通った予備校では特待生だったので授業料は全額免除。一浪して、見事合格する。東大では心理学や精神医学を心ゆくまで学んだ。
「普通の大学の心理学科は精神疾患について学べませんが、東大はちゃんと学べる貴重な場所だったと、東大に入ってから知りました」
学科内ではトップクラスの成績だった。
統合失調症の本でつながった二人
パーティーの席で初美さんは、たまたま読んでいた統合失調症(精神疾患のひとつ)に関する本が、小林さんが企画・編集を担当したものだと知る。小林さんが大学で学んだ心理学や精神疾患の知識をフルに生かした本だ。
「こんな素晴らしい本を作ってくださり、ありがとうございました! と、お礼を言われました。実は、初美の弟さんも統合失調症を患っていたんです」
それをきっかけに、小林さんと初美さんは同世代のライター、ブロガー、編集者による勉強会サークルで、定期的に顔を合わせるようになる。
友人関係のまま数年が経過するうち、徐々に距離が縮まり、やがてふたりは交際に至る。しかし、心理学や精神疾患に通じていた小林さんは、早々に気づいた。初美さんもまた、精神疾患を抱えていることに。
(次回につづく)
【ぼくたちの離婚 Vol.21 いつか南の島で #1】
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga


