もう1枚の紙片には、イラストと短い文言が書かれている。
「初美の部屋に残していった荷物の中に、彼女がいつも肌身離さず持ち歩いていた手帳がありました。僕は中を見たことがなかったんですが、初美が出ていったあと中を開いてみると、
僕に暴力をふるったあとに自分を見つめ直す文章や決意などが、びっしりと書かれていたんです」
初美さんは、不断の努力で自らを治そうともがいていた。
「その中に挟まっていたのが、この紙片です」
女性が泣きながら、小さな男の子を背中からハグしている。初美さん自身の筆によるイラストだ。そこに、こんな言葉が書き添えられている。
「
徹くんは私の宝物です。一生大切にします。いつもごめんね。ありがとう。 はつみ」
直筆に込められた思いの強さに、圧倒された。
「こういうことを書ける人間なんです。純粋で、心がきれいで」
疾患のせいで自分の意思が覆い隠され、時に記憶までなくして暴れ、本心とはまったく異なる言葉を発してしまう。愛する人を傷つけてしまう。それを初美さんは自覚していた。
だから、描いた。自分に向けて。小林さんへの愛と、謝罪と、感謝だけは忘れてしまわないように。心に黒く分厚い雲が覆って自らを見失ってしまっても、これを見れば必ず自分の本心が、あの純粋な気持ちが思い出せるように。

人に見せるあてのない、肌身離さず持ち歩く手帳に入っていたということは、つまり、そういうことだ。
イラストの女性は初美さんだろう。小さな男の子は――。
「これを見つけたときは、もう、ね……」
小林さんは言葉をつまらせた。
【ぼくたちの離婚 Vol.21 いつか南の島で #3】
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>