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「ドジでバカ」「女は家を守れ」女性の社会進出と逆行するロマコメの女性像

第二次世界大戦で強化されたジェンダー規範とマリリン・モンロー

 ところが、1930~1940年代のロマコメに見る男女平等は、残念なことに長く続きませんでした。第二次世界大戦が始まり、「男は外で戦い、女は家に守る」というジェンダー規範が強化され、ハリウッドが家父長制的な組織に変わっていったのです。そして、大戦が終結した1945年以降は、キャリアウーマンが結婚して家に入るという女性像がロマコメでは主流になっていきました。
第二次世界大戦で強化されたジェンダー規範とマリリン・モンロー

『七年目の浮気』

 興味深いのは、1950年代に入ると、マリリン・モンローが官能的で“主体的”な新しい女性像を打ち出して、ロマコメのジェンダー規範を一時、変えるかのように見受けられたこと。けれども、マリリン・モンローは1962年に急死してしまい、その後、ロマコメに出てくる女性キャラクターは、「貞淑な妻」というジェンダー規範に縛られるようになっていった、と監督は主張します。  その大きな理由が、ハリウッドの権力を握っている裕福な白人男性。彼らの価値観で映画が制作され、その結果、ロマコメのほとんどが、豊かな中流階級の白人キャラクターが織りなす“異性愛”のラブストーリーに偏ってしまったのです。

女性の社会進出と逆行するロマコメの女性像

APARTMENT by Bunkamura LE CINÉMA

オンライン映画館「APARTMENT by Bunkamura LE CINÉMA」が8月からスタート(Illustration: ototoi)

 1930年代から現代におけるロマコメで表現される女性性の変遷。1930~1940年代よりも、ロマコメ全盛期の1990年代から2000年代の女性のほうが社会進出を果たしているはずだし、性差別に対する社会意識も高いはず。それなのに、現実の女性の社会的地位が高くなるにつれ、ロマコメの女性像が家父長制にそったジェンダー規範に近づいていった……、ある意味、フェミニズムに対するバックラッシュ(反動)とも言えるこの現象を、私たち女性は自覚すべきでしょう。  ラブコメの構造を解き明かし、その魅力や課題を考察するエリザベス・サンキー監督のフィルムエッセイ『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』。1930年代から現代に至るまでのロマコメに表現される性的役割分業が女性の生き方や幸せにどれほど影響してきたのか、また、現実の女性の地位が映画の女性表象により“簡単に脅かされる”ものだということを、発見できる作品に仕上がっています。 <文/此花わか>
此花わか
映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト、米ACS認定セックス・エデュケーター。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。セックス・ポジティブな社会を目指してニュースレター「此花わかのセックスと映画の話」を発信中。墨描きとしても活動中。twitter:@sakuya_kono
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