折しも、ゼミ選択の時期に差しかかり、晴美さんの開講するゼミは定員オーバーのため面接をすることになったそうです。

「今まではこんなことはなかったのですが、私の講義が人気でゼミ生の面接なんて初めてだったんですよ。ま、支持されるっていうことが嬉しかったですけど」
ところが晴美さんは複雑な表情で語ります。
「なにやら面接会場の外が騒がしくて、何かあったのかなって思ってたんですよ」
しばらくして入室した生徒に晴美さんはかなり驚いたそうです。
「例の男子学生がタキシード姿で入室してきたんです。目の前の状況が理解できなくて一瞬頭が真っ白になりました。それでハッと我に返って、『私服でいいと伝えたのにタキシードで来たのはどのような意図があってですか?』って聞いてみたんです」
彼は晴美さんをじっと見つめて言いました。

「
僕の誠意を見せるためです」
「正直、悪寒がしました。これまでのつきまとい行為に対する誠意ってことなのかなって思ったけど、行動が飛躍しすぎっていうか…。とりあえず当たり障りのないゼミの面接だけして帰しました」
何事もなく面接は終わりましたが、ゼミ生の中では例の男子学生の話で持ちきりだったそうです。結局、ゼミの先輩生徒達とも相談したところ、男子学生はゼミ面接をパスしませんでした。
「ゼミは落としたものの、一応未来ある若者なので事を荒立てるのもどうかなと思い、対応についてはしばらく様子見することにしました」