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「パラスポーツは“ただのスポーツ”になってほしい」パラ水泳選手が語る未来

「腕がないから」と水泳クラブは入会拒否

一ノ瀬メイ

一ノ瀬選手の得意種目は個人メドレー。右前腕部の欠損を補い、左右の力のバランスをとって泳ぐため、故障も多い

 日本のパラアスリートを取り巻く環境は、一ノ瀬選手にも大きなハードルとして立ち塞がった。 「小学生の頃から、日本では練習環境を整えることにすごく苦労してきました。競技成績に直結するプールの中の努力の前に、プールの外でやらなければいけないことがとても多いのです。  パラリンピックを目指したいと思ったときも、水泳をできる環境さえなかった。大学へのスポーツ推薦入学にしても、大多数の大学はパラリンピアンの推薦枠がない。当時、すでに日本記録を持ち、世界選手権の出場も決めていたけれど、ダメなんです……。ありがたいことに、近畿大学の水泳部監督はすごく理解があって入学できました。」  実は、一ノ瀬選手は幼い頃に、日本と海外のパラアスリートを巡る環境の違いを目の当たりにしている。 「10歳のとき、日本の有名なスイミングクラブに入会を申し込んだら、泳ぎを見ることもせず、腕がないというだけで断られました……。それで、英国に1年間留学することを決め、実家近くのスイミングスクールを訪れると、腕については何も触れず、まず『何秒で泳げるの?』と聞かれて、すごく驚いたんです。  実際、入会するとタイムだけでクラス分けされたし、障害の有無は関係ありませんでした。出場した大会でも、自分と同じような子たちがたくさん参加していたんです」

日本の教育は「順番が逆だし、不自然」

 障がい者を取り巻く社会のあり方は、日本と英国では大きく異なった。それはスポーツに限らず、教育の場でも顕著だったという。 一ノ瀬メイ「当時、英語の読み書きができず、公立小学校に入ると『特別な支援が必要な生徒』にサポートする先生がつくくようになっていた。私の場合、腕がないことはヘルプの対象ではなく(笑)、英語の読み書きをマンツーマンで教わりました。クラスには知的障害の子もいたけれど、『障がい者』を一括りに分け隔てるのではなく、健常者も障がい者もごちゃ混ぜにして、個人に合わせて支援していたんです。  ところが日本では、健常者とは別に、障がい者は特別支援学校で教育を受ける。分けるから、学校教育で障がい者や差別について教えることになるんですよ。健常者と障がい者が学校でごちゃ混ぜだったら、子供は障がい者について自然と学んでいく。日本では障がい者を初等教育の段階で分けておいて、後から障がい者教育というかたちで統合しようとしている……順番が逆だし、不自然なやり方です」
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水泳は社会を変えるための発信ツールだった
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