対馬容疑者には過去にナンパ師を自称していた時期があると、『文春オンライン』などが同級生へ取材をもとに報じています。その点について、どのような心理が垣間見えるのでしょうか。
「ナンパをしている人の中には、女性をモノ、つまり自分のステータスを充足させるためのアイテムのように捉える傾向があります。また、射精するための『的(マト)』という表現を使っていた人もいました。『
男性としての価値を上げるために、女性を消費する』といった、男性コミュニティ特有のホモソーシャル(有害な男らしさ)的思考に支配されている可能性があります。
ナンパの場合、性交渉した数を稼ぐ目的が大半で、相手と親密になり人として対等な関係を育むことが目的ではない場合が多いです。私が知っている加害者も、手帳に性交渉した人の数を『正』の字で記録している人がいました。報道によれば、容疑者は決してモテない人ではなかったようで、ナンパでの成功体験が多数あったであろうと想像できます。その経験から学習したことがきっかけとなり(代表的な認知の歪みは「嫌よ嫌よも好きのうち」など)、男性コミュニティにありがちな偏った思考が育まれてしまったと考えられます」
斉藤氏はクリニックで痴漢や万引き(窃盗症)、アルコール依存症の治療に携わってきました。対馬容疑者は事件前に万引きで通報されたといいますが、事件との関連性をどのように見るのでしょうか。
「万引きの常習犯、つまりクレプトマニア(窃盗症)の患者さんが今回のような重大な他害行為に及ぶケースは、見たことがありません。そもそも、報道から容疑者の場合は経済的な事情(生活保護受給中)から万引きに走ったとも考えられ、クレプトマニア(窃盗症)の患者さんとは厳密に分けて考えるべきだと思います」
一方で、痴漢との共通点に関してはこう指摘します。
「性暴力の加害者は、状況や条件付けによって対象をモノ化する傾向があります。電車内は匿名性が高く、多くの人を狙いやすため、容疑者が供述したという『誰でもよかった』という考えと合致した可能性もあります。
人の顔や名前、属性はどうでもよくなる、つまり匿名性が高いという意味で電車は象徴的な場所です。容疑者と直接面談したわけではないので、彼にどういう性的嗜好があるかはわかりません。ですが、
かつてモノ化された人ほど、自分より弱い存在をモノ化する特性を持ちやすい、と考えられます。本人の生育環境で、モノとして扱われていた時期があったのではないか…といった考察もできるでしょう」