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松坂桃李が土下座し、古田新太が荒れ狂う。「ラストに奇跡が起こった」映画『空白』

ラストシーンを思いついた意外な場所

空白

吉田恵輔監督 撮影/山野一真

 鬼気迫る古田、半泣きで土下座する姿が鮮烈な松坂をはじめ名優たちの削り合うような力演に呼応し、ストーリーは二転三転していく。  複雑に絡み合ったこの物語がどこに向かうのか、まったくわからない。吉田監督自身も執筆に要した1か月の間、ラストが決められず苦心したという。 「年を取ると集中力がなくなってきて、一日2時間書ければいいほう。すぐアダルトサイトを開いちゃう(笑)。そうなるともうアイデアは出てこない。添田(古田)が最後に何を見るのか、まったく思いつかなかった」  吉田監督に天啓が訪れたのは、意外な場所だった。 「山梨県のほったらかし温泉に遊びに行ったときに、『風呂に入っている1時間で考えよう』と決めて入ったら、目の前には雲と山しかない。そこから『同じものを見て、同じ価値観を抱く』という発想が生まれました」

古田新太の表情に「私が泣いてしまった」

 そうした奇跡は、撮影中にも訪れた。ラストシーンは全体の撮影でも最後。カットがかかり、クランクアップを迎えた際の古田の表情が使われている。 「ラストカットは何も指示を出さず、泣いてほしいとも言わなかった。そこはさすが古田さん、素晴らしいラストで、私が泣いてしまった。そのまま使おうとしたけど、編集段階で確認すると、添田が古田さんに戻る瞬間に視線が何かを見つけたように動き、心がフワッと揺れる様子が映っていて、『ああ、これがラストだ』と思いましたね」  現在、新作を準備中の吉田監督は「撮影地の愛知・蒲郡が素晴らしかったから、空白・蒼白・わんぱくの蒲郡三部作を撮りたい」と冗談を飛ばす。新境地を切り開き続ける吉田監督の次なる挑戦にも期待したい。 『空白』 監督・脚本/吉田恵輔 出演/古田新太 松坂桃李ほか 企画・製作・エグゼクティブプロデューサー/河村光庸 撮影協力/蒲郡市 配給/スターサンズ KADOKAWA 【吉田恵輔】 映画監督。’06年、『机のなかみ』で長編デビュー。オリジナル作品のほか荒川弘の『銀の匙 Silver Spoon』(’14年)、古谷実の『ヒメアノ~ル』(’16年)、新井英樹の『愛しのアイリーン』(’18年)を実写映画化 取材・文/SYO 取材/村田孔明(本誌)
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