電信柱や公共の掲示板で、誰もが一度は目にする迷い猫の貼り紙。ほんの一瞬の隙をついて、猫は脱走するのです。「外に出てしまった猫は訳がわからず、その場で固まるか、やみくもに逃げ出すかのどちらかだ」と本書にあるように、猫自身には脱走という概念はないのでしょう。そもそも、家の中と外、という意識すらないのかもしれません。
一歩外に出れば交通事故や、野良猫の縄張り争いに巻き込まれる危険があります。無事に帰ってくる保障はどこにもないのです。脱走防止も飼い主の義務、ドアや窓の開け放しはくれぐれもやめましょう。我が家の猫は、網戸に止まった蝉に体当たりしました。幸い網戸ははずれませんでしたが、爪でひっかく猫もいるようです。夏の網戸にはご用心。
猫を買う、あるいは迎え入れるのは簡単ですが、猫を飼い続けるには覚悟が必要です。「
猫を飼うということは、その猫を看取る、ということ」と本書が記すように、別れは必ずやってきます。 子猫時代の無邪気な姿からは死など想像できないかもしれませんが、猫を飼いはじめた日から、猫の生涯はあなたの手にゆだねられていると言っても過言ではありません。
また私事で恐縮ですが、我が家に来た時は3歳だった愛猫も今や10歳。人間年齢で還暦です。病院に通う回数も増え、現実的にお金もかかります。でも、それらをひっくるめてもやはり愛くるしい存在に変わりはありません。
猫を飼いたいあなたへ、最後に本書のこの言葉を。
「
猫との暮らしで得てきたおだやかさとか、やわらかさとか、あたたかさとか、おもしろさといった幸せの数々は、全部返済の義務がある『前借り』なのだ。そして、前借した幸せを返済する唯一の方法が、『その猫を看取ること』なのだ」。
猫好きの人もそうじゃない人も、命の大切さをひしひしと感じる一冊です。
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小説家・森美樹のブックレビュー―
<文/森美樹>