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お葬式ファッションは誰のため?ダサい礼服と細かいルールにうんざり

 葬儀に参列することになったら、あわてて「葬儀 マナー」「葬儀 服装」と検索する――これ、大人の“あるある”ですよね。  全身黒で、女性はパンツじゃなくスカート、アクセサリーは結婚指輪とパールのみOK……こうしたルールに「いったいいつだれが決めたものなんでしようね?」と疑問を投げかけるのは、本音炸裂のエッセイ『おんなのじかん』(新潮社刊)が話題の小説家・吉川トリコさん。
吉川トリコ『おんなのじかん』(新潮社刊)

吉川トリコ『おんなのじかん』(新潮社刊)

 WEBマガジン「考える人」の人気連載をまとめた本書には、世間の用意した言葉からはみ出す感情が余さず綴られています。著者の本音からほとばしる推しへの愛まで語り尽くした本書の一部を、女子SPA!に出張掲載します。 ※以下、吉川トリコさんのエッセイ『おんなのじかん』(新潮社刊)より「She’s a mannerf*cker」の章を抜粋・一部編集したものです。 【吉川トリコさんの前回記事】⇒流産の話はタブー?「なんで内緒にしとかなあかんのや!」とぶちきれた日

なんと言うのが「正しい」のか、いまもって私はわからない

 去年の暮れに、義父が亡くなった。  数日前から危篤だとは聞いていたので、いざ夫から電話でその報せを受けたとき、「ああ、そうなの」としか言えなかった。なにか夫を気遣うような言葉をかけたかったのだけれど、あくまで事務的に話を進めようとする夫につられ、私もそのようにつとめた。  この場合、なんと言うのが「正しい」のか、いまもって私はわからないでいる。「ご愁傷さまです」だとなんだか他人行儀だし、それに義父は私の身内でもあるわけだから身内から身内に「ご愁傷さまです」はおかしいような気がする。とかいいながら、葬儀場で義母や義兄と顔を合わせたときには、「ご愁傷さまです」と思わずロをついて出てきてしまったんだけど、口にしながら「正しい」のかどうか不安になってきて、最後のほうはごにょごにょさせてごまかした。これが日本の四十二歳、自由業のリアルである。
香典 数珠 和紙

写真はイメージです(以下同じ)

 通夜の当日、四年前に買った礼服のジッパーが閉まらず、台湾で買った五千円の黒いワンピースに、手持ちの黒いジャケットを合わせて即席の葬儀コーディネイトを編み出したけれど、だれに咎(とが)められることもなく二日間やり通した。ネットで調べてみたら「ストッキングは黒。タイツはNG」とあったので、コンビニで黒いストッキングを買い、葬儀用の黒いパンプスを下駄箱の奥から引っぱり出して履いていった。  低めの太ヒールにもかかわらず、家を出て五分もしないうちに足が悲鳴をあげはじめ、マジKuToo、ファッキン女にヒールを強いるクソ社会だぜ(※あまりのクソさにクソが重複)と思いながらたどり着いた式場には、黒いタイツに黒いスニーカーもどきの靴を履いている女性がいた。パンツスタイルの女性もいれば、イッセイミヤケのプリーツプリーズのような細かいひだのスカートや、ウエストにリボンのついたAラインのかわいらしいワンピースを着ている女性もいた。

いつだれが決めたもの? 葬儀ドレスコードの数々

 自由だな! とまず思い、そんなのどこに売ってるんすか? と訊いてまわったりもした。私がこれまで目にしてきた「女性用礼服」の数々は、さしてバリエーションもなく、どれも似たようなデザインの、野暮ったいものが多数を占めていた。中途半端にタイトなラインの、膝をすっぽりと覆う半端丈のワンピース、妙に存在感のあるくるみボタン、台形型のハンドバッグ、洗練さのかけらもないずんぐりとしたパンプス。私はめったにヒールの靴を履かないが、どうせ痛い思いをして履くのなら、クリスチャン・ルブタンのような美しい靴を選んで履きたいものである。 お葬式に向かう女性 さらにそこへ、うんざりするような葬儀ドレスコードの数々が加わる。女性の礼服は基本的にスカートが正式とされていて、パンツスーツはあまり好ましくないとされる。殺生を思わせる革製品の使用は控えるのが望ましい。アクセサリーは結婚指輪とパールのイヤリング&ネックレスまでなら身に着けてもいい。靴はパンプス一択。ただし、ピンヒールやポインテッドトゥなどデザイン性の高いものは不可。  ……挙げているだけでうんざりしてきたのだが、これっていったいいつだれが決めたものなんでしようね? 弔事に着飾るなんてけしからんという考え方もあるだろうが、死者をお見送りするのに着飾ってなにが悪いの? と思わんでもない。もちろんおしゃれしたくない人はしなければいいとは思うが、おしゃれしたい人の自由まで奪わないでほしい。  私はそこまでファッションにこだわりがあるわけではないけれど、普段からおしゃれに命を懸けているファッショニスタたちにとって、葬儀のときだけ意に沿わぬ格好をさせられるなんてまさに憤死案件じゃないだろうか。そういえば以前、バレンシアガで黒いワンピースを試着したときに、「私も同じのを持ってるんですけど、お葬式にも着ていっちゃいます」と店員の女性が嬉しそうに話していた。これまでショップ店員から百万回ぐらい聞かされたことのある「私も同じの持ってるんです」の中でも、ダントツに聞けてよかったことだ(結局そのワンピースは買わなかったんだけど)。
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年配女性たちのフリーダムな葬儀ファッション
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