昭和然とした時代錯誤な日本の性教育。これから世界水準に追いつくためにはどうしたらいいのだろうか。 「はどめ規定撤廃も重要ですが、学習指導要領はあくまでも学習すべき最低基準であり、はどめ規定を超えて発展的内容を教えても問題ないという認識が学校関係者に広がってほしい。日本は世界から何周も遅れているといわれている。そのしわ寄せは若者にいくのです」（櫻井氏） 「コンドームの使い方を教えただけでは、中絶率・避妊率は下がりません。性の知識を身につけるだけではなく、自分や人を思いやる価値観や性問題から自分を守るための心の教育なくしては効果がない。性教育は命や人生、そして人権の教育なのです」（渡會氏） 　前出のマイさんは、ユネスコが定義している「包括的性教育」で、性に関するスキルや知識だけでなく人権やジェンダー観を学び、自分の性や体を大事にすることを知ったという。高校で性教育の模擬授業も行い、「将来は助産師になって包括的性教育に携わりたい」と夢を語ってくれた。 　日本の未来を担う性教育。変えていきたいと若者が立ち上がる前に、その気持ちに応える性教育であってほしい。 　学校の性教育向上が切望される一方で、幼児期から家庭で教える“おうち性教育”が近頃注目を集めている。20万部超のヒット作『おうち性教育はじめます』著者の村瀬幸浩氏に聞いた。 「なぜ家庭でもすべきなのかというと、学校では賄えない学びがあるからです。学校は学年に合わせて理解してほしいカリキュラムをもとに教えますが、家庭は素朴な子供の疑問に答えたり、行動や体の変化に助言したりして、日常生活で性の価値観を育むことができます。ニーズが高まっているのは、昨今の子供の性被害、性犯罪を不安視する親が増えたからではないでしょうか」 　おうち性教育と学校教育では学び方に大きな違いがある。 「親から教えるのではなく、子から聞かれたら答えるというのが筋。『どうやって赤ちゃんができるの？』と聞かれたときのためにもきちんした回答を親が準備しておくこと。冗談や嘘を言ってはいけません。誤った認識や思い込みを生み、性をネガティブなイメージにします。もし答えられないなら『答えを準備するからまた今度聞いて』と伝えましょう」 「コウノトリが運んでくる」なんて冗談は言語道断だ。 【櫻井裕子氏】 開業助産師。クイズを取り入れたユニークな性教育講演を21年間実施。自身も在学中に意図せぬ妊娠の経験があり、子供に寄り添った講演に定評がある 【渡會睦子氏】 保健師。東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授。住民とともに活動する保健師の会代表。出版教材：人生を豊かに育む教育（日本家庭計画協会） 【村瀬幸浩氏】 元一橋大学、津田塾大学講師。日本思春期学会名誉会員。保健体育科教諭として25年間勤務。フクチマミ氏との共著『おうち性教育はじめます』（KADOKAWA） 取材・文・撮影／桜井カズキ　ツマミ具依　写真／朝日新聞社　産経新聞社　立川則人