「夫は私の目の前で、彼女に『誤解させて悪かった。オレはきみとはもう会わないし、傷つけた妻に一生、償(つぐな)い続ける。だからもう連絡してこないでほしい』と告げました。
彼女はしばらく黙っていましたが、立ち上がると、夫の顔を思い切り殴り飛ばして去っていきました。よほど力を込めたんでしょうね、めがねが飛んで鼻血が出て。あとから顔がものすごく腫れました」
夫は流血しながら、「これで許してもらえないかな」とつぶやいた。許せないとはいえない状況だ。ホテルのスタッフが飛んできて救急車を呼ぼうかと尋ねているし、周りは騒然としているのだから。
「そのまま夫はチェックアウトしてふたりで自宅に戻りました。娘は心配しながらも大喜びでしたが、私は少し複雑な気分でしたね」
それでも夫が謝り続ける姿を見て、「もういいか」とユキさんは思った。とにかく娘が父親のそばから離れないのがいじらしくもあり、せつなくもあった。
「私さえ我慢すれば……と思ったわけではないんです。私も娘の気持ちが少しはわかる。今までのすべてを投げ捨ててもいいくらい嫌いだと言い切れなかった。
夫は『オレの家族はきみと娘しかいないから』『きみは特別な存在だから』と言い続けた。私じゃなかったら許さないと思うよと言ったら、うんと涙ぐむんです。責めるのに疲れたところもありますね」
そもそも人を責めるのはエネルギーがいる。責めているうちに「こんなに人を責められる自分か?」とブーメランが襲ってくる危険性もある。誰もが不完全なのだから。

「納得してやり直したはずでした。夫はすっかりいい夫、いい父親の顔を取り戻しています。ただ、私はときどき、夫の元カノに襲われる悪夢を見たり、夫が近所の女性と挨拶しているのを見ただけで、あのころのことがフラッシュバックしてきたりする。
自分の感情がキャパを越えてあふれ出すことがあってつらいです。自分をコントロールできない。かといって、夫にそれを言ったらさすがに責めすぎだろうなとも思うし」
あれからようやく1年がたったばかり。この先、家族で過ごす時間の中で、このつらさが少しは癒えていくのだろうか。ユキさんはそんな「日にち薬」を期待しながら、日々を過ごしているという。
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<文/亀山早苗>
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