とは言えそんな不謹慎な想像でこのまま本稿を突っ走るつもりは毛頭ないので、ここでソロ・アーティストとしての岩田について確認しておくべきことがある。
2021年、ソロプロジェクト「Be My guest」を始動させた岩田は、12月7日に「ブルーノート東京」でソロ初のファンミーティングを行なった。EXILEと三代目JSBを兼任するパフォーマーとしてではなく、ひとりのソロ・アーティストとしてステージ上に立つ。1stシングル「korekara」の歌詞に「行き先は誰も知らない」とあるように、それはまさに岩田自身の「未来図」を描いていた。
Huluで独占配信されているイベント映像冒頭で岩田は、ソロアーティスト活動を始動させた理由について、「(EXILEや三代目JSBの)その空間だけでは僕を応援してくれてるファンの方に自分の思いだったりとか自分の頑張っていること、色んなコミュニケーションする時間って足りなくなってしまったんです」と胸中を打ち明けている。それは紛れもない「ソロ・デビュー宣言」となった。
『ディア・シスター』(2014年、フジテレビ系)からこれまで出演してきたドラマと映画作品の裏話を明かしていくフラッシュバックコーナーでは、2018年公開の映画『去年の冬、きみと別れ』以前以後で自分の演技が様変わりしていることを自己分析した。他に河瀬直美監督作『Vision』でフランスの大女優ジュリエット・ビノシュとの共演を得たこの年は、岩田にとって確かにターニングポイントになっている。
このフラッシュバックトークが重要なのは、そうした振り返りがソロデビューという新たな決意と意志と折り重なっているからで、そうして初めて公開された作品が、『金魚妻』であり、このファンミーティングや4th写真集『Layer』発売の準備を進める真っ最中に本作の撮影は行なわれたのだ。

第1話で、春斗(岩田剛典)が営む金魚屋の水槽を両サイドから見つめ、水槽越しにさくらと見つめ合う場面に始まり、何気ない瞬間に新生・岩田剛典の鮮やかな表情が刻まれる。
夫のことを気にして金魚屋から逃げるように出て行ったさくらとその後すぐに再会する場面では、初主演映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016)で印象付けられた「岩ちゃんスマイル」がバージョンアップされている。30代になったことも要因のひとつだが、瞳の奥にはどこかドスが利いていて、様々な感情を読み取ることが出来る。複雑な感情をコントロール出来る演技者となった証だろう。
しかしそれでいて、遊覧船での他愛のない会話や第2話冒頭で外泊させたさくらとインスタントラーメンを食べる朝の場面などには、岩田の素の部分を覗かせるような爽やかな笑い声がナチュラルにこぼれてくる。素の状態ですら自分の演技プランに取り込んで、それをいかにも自然体で見せていこうする岩田は、ソロ・アーティスト宣言後だからこその洗練された演技を存分に発揮しているように思う。