マスクが上司の小言や、他人の視線から守ってくれる防具(ガード)になったということでしょうか?
「そうです。『マスク一枚でなにも変わらないよ』って言われるかもしれませんが、私は変わったんです。心がガードで守られるような感覚でした。辛いのに無理して愛想笑いをしなくていいし、堂々と歯を食いしばって耐えられる。マスクの下で歯をむき出しにして威嚇(いかく)したり、思いっきり口角を下げてへの字口にしたりもできる」
マスクの下は見えないから、無理に“社会人”にならなくていい。そう思うことで心がラクになったのだそう。
「人と壁を作ると言うと語弊がありそうですが、人と適度な距離を保てているような。それがマスクのおかげでできるようになったんです」
彼女にとってマスクは、社会人としての自分を支えてくれる“心のよりどころ”でもあり、外敵から守ってくれる防具にもなったそうですが……
「でもここまで手放せなくなってしまうとは思いませんでした。もはや顔の一部どころか、私自身の一部ですから。今はコロナ禍で仕事中や会議でもマスク着用を求められますが、怖いのはコロナが落ち着いてからです。
マスクをつけるのは、下着をつけるのと同じくらい当たり前で不可欠なこと。
『マスクを外せ』と言われたら、もう会社に行けないかもしれない。
社会人として自信をつける前にコロナが流行ってしまったから、まだ自分一人で何でも立ち向かえる、臨機応変に対応する力が正直ないと思います。マスクに頼りつつ、なんとか自分の心を守っているような感じですし……。コロナが沈静化したとき、自分がどうなってしまうのか。想像するとすごく怖いです」