それを機に、ときどきヨシキさんと会った。恋愛感情は生まれなかったが、仲間としての情と性的興味から逃れられなかった。性的に満たされることが重要だったのだ。
「それだけじゃないんです。実は会社の同僚とも勢いでそういう関係になってしまって……。同僚とはかなり本気の恋です。私、箍(たが)が外れてしまったみたいで」
まじめに生きてきて、好きな人と結婚してまじめな人妻だったはずなのにと彼女は消え入りそうな声で言った。まじめだったからこそ、そしていったん性的な喜びを知ってしまったからこそ、それがかなわなくなったとき、箍(たが)が外れてしまったのかもしれない。
「朝帰りこそしませんでしたが、私の帰宅が遅くなっても夫はなにも言わないし、週末は一緒に近所のカフェでブランチしたり映画を観に行ったりと仲良しのまま。
性的なこと以外、夫に不満はありませんでした。だからセックスだけ外注すればいい。そんなふうに思うようになったんです」
だがある夜、ふたりでリビングでくつろいでいると、「きみは最近、どんなセックスをした?」と夫がたずねてきた。キヨノさんが焦(あせ)ってなにも答えられないでいると、夫は「聞かせてほしいんだ」と真顔で言う。
「夫は『刺激がほしい』と。刺激があれば自分もできるかもしれない。私が他の男とどうこうしているところを想像すると興奮する。きみの口から聞きたい、と。
この人、おかしいんじゃないかしらと思いながら、夫に問われるままに少しずつ話しました。夫は『つらい。きみが他の男としているなんて』と苦しそうな顔をするので話すのをやめると、『やめないでほしい』と懇願(こんがん)する。
どう言ったらいいんでしょう、夫が醸(かも)し出す妖しい雰囲気に飲まれて、私はヨシキとのこと、同僚とのことを結局、洗いざらい話してしまいました。夫は怒らず、つらそうな顔をしたまま、『きみを心から愛している』なんて言うんですよ。
嫉妬している夫をどう扱ったらいいかわからなかったけど、夫が望んでいることをしてあげたいとは思った。一般的にはあり得ないかもしれませんが……」
寝取られ願望がある男性は一定数いる。キヨノさんの夫はそういうタイプだったのだろう。だが、夫自身、自分にそういう嗜好があるとは気づいていなかったようだ。
「あとから夫がしみじみと、『きみの幸せが僕の幸せだと思うことにした。嫉妬が僕のきみへの愛情のバロメーターになっているような気がする』と言いました。
同僚との恋は、あちらも既婚者だから妻にバレそうになって終わってしまったんですが、そのときも夫は慰めてくれました。夫も変だけど私も変だと思います。それでも妙なことに、夫への信頼と愛情は以前より大きくなっている」
なのに彼女は、懲りもせずに繰り返し恋をする。不倫をしながら夫への愛情を増大させていく妻、そんな妻を受け止める夫。強固な「ふたりだけの世界」が構築されつつあるのではないかと思えてならない。
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<文/亀山早苗>
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