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研ナオコや中山エミリが織りなす放送事故級のスリル、NHK『すてきにハンドメイド』

 NHK・Eテレで放送中の『すてきにハンドメイド』(木曜・午後9:30~9:55)が絶好調です。タイトルの示す通り、身の周りの雑貨や洋服を手作りで作ってみようということで、毎回ゲストを招いて作り方から完成までを紹介する番組です。  各回のテーマ設定も極めて明瞭。ぱっと見で分からないことがありません。「1日でつくる かんたん夏のワンピース」(7月24日)も秀逸ですが、「夏を快適に! ひんやりクール襟」(8月14日)では「ひんやり」と「クール」を重ねてくれる温かな心遣いが沁みます。Don’t be クール襟。

テレビからは「きゅっきゅっ」という音だけが……

 しかし7月前半2週のラインナップは、なぜかカオスでした。 「北斗晶と 幸せ願う ふくろうのにおい袋」(7月10日)には色々と解決すべき問題があります。まず、幸せを願うためのふくろうなのか、「におい袋」と韻を踏みたいがための「ふくろう」なのか。そこに北斗晶という動かしがたい強力な固有名詞があることで、“幸せ願う”が宙ぶらりんになってしまう。本来オールマイティな高揚感を与えてくれるはずの言葉から意味を奪う高度なレトリックです。  そんな『すてきにハンドメイド』が番組史上最大の危機を迎えたのが、「研ナオコの紙バンドのバッグ」(7月3日)でした。
すてきにハンドメイド(7月号)

研ナオコさんや北斗晶さんの作品は7月号のテキストに収められています

 細いこよりを束ねてテープ状になった紙を縦横に編んでいきバッグを作る。その魅力にハマってしまったという研ナオコが講師を務めたのですが、「楽しくてしょうがない」と語るその表情からは魂が抜けきっているように見えました。工程を説明する言葉もふがふがと空気漏れしているようで、その合間に入る笑い声も棒読みのような無機質さ。  そして研が作業に集中してしまうと、テレビから聞こえるのは紙バンドをかご状に編み込んでいくときに出る「きゅっきゅっ」というサウンドのみ。  紙バンドのバッグという題材だけでも厳しいのに、番組にはあるべきグルーヴが皆無でした。一番乗り気であるはずの研のその気持ちに身体がついていかない。スタジオでのやり取りに移るとさらにやり切れない悲しみが支配していました。
すてきにハンドメイド(7月号)試し読み

こちらで試し読みもできます。http://www.sutekinihandmade.jp/magazine/2010/1407.html しかしなぜ紙でバッグを・・・

 司会を務める吉井歌奈子キャスターは、機械的な笑みと事務的な進行という立場を死守することに躍起な様子。その横では研ナオコが「ちゃんと使ってくれる人に作ってあげたぁーい」と、目の焦点も定まらないまま紙バンドのバッグの意義を主張しています。

研の独り言を受け止めるエミリ

 この吉井キャスターの民事不介入的な態度と、アサッテを眺める研ナオコの自由との間で板挟みになっていたのが、この日のゲスト中山エミリでした。“ゲスト”とは名ばかりで、なんとか自分が二人の間を繋がなければ収録なのに放送事故になりかねない。  若くしてキャリア豊富な中山エミリならではの直感が働いたのでしょう。吉井キャスターに次なる展開をうながしつつ、研ナオコの独り言を優しく受け止める。加えて、紙バンドのバッグを実際に作ってみたいという視聴者代表の役割もこなす。困惑と苦悩の色がにじみ出る中、まさに八面六臂の大活躍だったのです。  にもかかわらず、その姿はにおい袋の回で行き場を失った「幸せ願う」のフレーズのようでした。丸投げされたカオスにもてあそばれ、その価値が抜き取られてしまう。本来バラエティ番組で重宝されるはずの中山エミリの献身が、ここでは功を奏しません。吉井キャスターも研ナオコも、そんなエミリには何の興味もないのですから。  それはテレビ番組の中で繰り広げられた、最もテレビ的でない瞬間だったと言えるでしょうか。  教育テレビからEテレへと名称が変わって早3年。それとともに北欧家具が好きそうなハイセンスな若者を取り込もうとする番組も増えてきたように思われます。しかし伝統の力はそう簡単に変えられるものではない。「研ナオコの紙バンドのバッグ」でのヒリヒリするようなスリルには、まさに老舗の底力を見せつけられたような気がします。 <TEXT/沢渡風太>
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