でも、想像以上に彼とは長く続いた。どんどん彼にひかれていく自分を感じ始めていた。この人とは別れたくないかもと思っていた矢先に、突然別れはやってきた。
「半年前のことです。いつものように会社のあとにご飯にいったとき、
急に会社を辞めて、栃木の実家に帰ることになったと言われたんです」

彼の実家は栃木の宇都宮。お父さんは3代目の和菓子屋さんで、すでに彼のお兄さんが跡継ぎとして実家に残っていた。が、そのお兄さんが首つり自殺。うつ病だったらしい。そこで、二人兄弟の弟である翔さんが実家に戻るかどうかという話し合いの場が持たれた。
当初は、翔さんは今まで通り会社勤めを続けるつもりだったそう。
和菓子屋さんはお父さんの代で畳もうかどうかという話になったのだが、それには翔さんの奥さんが強く反対したのだという。長く続く和菓子屋さんを翔さんが守るようにと助言し、自分も起業する夢を捨てて全力で翔さんをサポートするからと説得されたのだ。
そう。奥さんは誰もが知る大企業でバリバリ働く女性で、近々、起業のために退職予定だったというのだ。だが、すべてを捨てて、翔さんの実家を継ぐことに決めたそうだ。
「その夜、はじめて奥さんの話をちゃんと聞きました。ああ、かなわないなと思いました。そして、余計に翔君を手放したくないって思ったんです。こんな気持ちははじめてでした。今までは、さよならはいつも私からだったし、辛いとか悲しいとか感じたことはなかった。でもそれは多分、私が本気で恋愛していなかったからなんですよね。
翔君のときに、はじめて恋愛をしていたんです。
思い返せば、1年半なんて、今まででいちばん長くつきあいましたし。途中からは、自分から別れることとか考えたこともなかった。むしろ、土日にはなかなか会えない不倫って寂しいなと、少し感じていましたしね」
ふたりでよく行ったイタリアン。その夜もワクワクした気持ちだったのに、一瞬にして目の前が閉ざされてしまった。
自分は和菓子屋さんの奥さんになんてなりたくないし、翔君からなってくれとも言われていない。彼のさよならの言葉をただ受け止めるしかない自分が、とてもちっぽけに感じた。
彼の話に、動揺した。でも動揺していることを悟られまいと、平静を保とうとした。プライドだった。少しだけ涙が流れたけど、それを隠しながら、だまって彼の話にうなずくしかなかった。そんなさよならは、加奈子さんにとってははじめてのことだった。
【前回記事】⇒
「10歳から友達の彼氏を奪って楽しんでた」不倫を繰り返す33歳女性の“闇”
【関連記事】⇒
占いに月20万円使う39歳女性が、“元彼”を6年間うらみ続ける理由
【関連記事】⇒
「10歳下の彼は、300万円振り込んだら消えました」人妻なのに“結婚詐欺”に遭った42歳女性