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岩田剛典がどうしようもなく愛おしい…『シャーロック劇場版』が描く“ブロマンス”

どこまでも愛おしいブロマンス

Ⓒ2022「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」製作委員会 紅の存在が、蓮壁家にとって因縁の誘拐事件の謎を解き明かすとき、紅のほんとうの両親を前にした若宮がこんなことを言う。 「名前を呼んであげてください」  わかみーちゃんも成長したもんだ。そんなふうに獅子雄っぽくいじってもみたくなる若宮のたくましい発言である。こういう発言ひとつ考えてみても、その裏には必ず獅子雄という人が若宮のメンターとなって、二人は常に繋がり合っている。若宮は獅子雄を愛し、獅子雄も若宮のことを愛している。ただそれだけのことでないだろうか?  といっても、それを間違っても「BL」だなんて安直なものとして捉えないでほしい。紅への気持ちによって確かめられるのは、獅子雄への信頼と愛だった。どこまでも愛おしいブロマンス(男性同士の親密かつ精神的な繋がり。ホームズとワトソンの関係性が典型的)である。獅子雄と若宮の関係性は、やっぱり一言では言い表せない。それぐらいグレーゾーンの幅が広く、ボーダーレスで、深い愛なのだ。

振り返る俳優として

 そんな愛の人、若宮の大冒険は、非常に劇的な展開を迎えることになる。紅に片思いするもうひとりの想い人である地質学者の捨井(小泉孝太郎)が、何やら「大地震」というワードを度々ちらつかせていたことからも物語の結末はなんとなく予想はできた。2つの誘拐事件が時を超えて重なり、悲しい一族の秘話が明らかになるとき、物語世界は大きな力の変動によって瓦解する。その瞬間が、若宮最大の見せ場であるのがなんとも皮肉な話である。  蓮壁家の屋敷から走りだした車の荷台から、遠ざかる風景をみつめる若宮の視線に、いったいなにを読み込むべきだろうか? ここで筆者は岩田が出演した近作にある類似を発見した。大九明子監督作『ウェディング・ハイ』(2022年)で、かつての恋人を残したチャペルが移ろう車窓を切なくも爽やかな視線でただじっとみつめていた主人公の姿である。ここで岩ちゃんを、“振り返る俳優”として位置づけてみたい。
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岩田剛典という俳優がもたらす“映画的な力学”
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