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離婚後子どもに会えない父親たち。その悲しみをマンガに描いた理由を作者に直撃

誰もが一生懸命生きている。けれども…

 タカシも元妻も、娘のことは大事に思っている。それなのに娘は父に会えない。そして父は、毎日のように娘を夢に見て苦しんでいる。 「“離婚するときは共同親権にしたほうがいい”とか、“いや、そのほうが問題が生じる”とか、法律的にはいろいろ賛否があると思うんです。でも私がこれを描いていて思ったのは、そんなむずかしい話ではないんじゃないか、もっとシンプルなところに答えがあるのではないか、ということでした」  印象的だったのは、元妻が娘に対して元夫(父親)の悪口は言わないものの、表情や態度に本音が出てしまうところ。メッセージは言葉だけでないと気づかされる。だからといって元妻が「悪い」わけではないのだ。 「誰もが一生懸命生きている。父も母も娘のことを思っている。それなのに、こういうことになる現状がある。それをなるべく淡々と描くよう心がけました」  だからこそ、離婚家庭で育った人だけではなく、誰にも「思い当たる」作品となっている。

娘が『漫画を描いてみたら?』と言ってくれた

 小学生のころから、将来は絵を描くことを仕事にしたいと思っていたと野原さんは言う。イラストレーターとして仕事をするようになったが、漫画は合わないと思っていた。 「東北の大震災があったり母が亡くなったりしたころ、なんだかやる気が出なくて1年くらい仕事をしていなかったんです。そうしたら娘が『漫画を描いてみたら?』と言ってくれた。娘が小学生のころ不登校になったことがあったので、そのことを描きました」
野原広子『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』(KADOKAWA)

野原広子『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』(KADOKAWA)

 それが『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』(KADOKAWA)だ。2013年に刊行されたこのコミックエッセイが話題となり、以来、『離婚してもいいですか? 翔子の場合』『消えたママ友』など、女性たちの心を揺さぶる作品を発表し続けている。  前作を発表してから、更年期症状に悩まされていると苦笑する野原さん。今後も、気になることを漫画にしていきたいと言う。 「今はとにかく、今後の目標と聞かれたら健康維持としか答えられないんですが(笑)、いずれ更年期の経験もまた、漫画にできるかもしれません。私自身は子育てを楽しみとして生きてきたところがあるので、逆に子どもがいない独身女性にも関心があります」  どんな生き方も否定しない姿勢が、野原さんの作品からは伝わってくる。特に本作は、今まで以上に世代も性別も生育歴も問わず、人の胸を打つはずだ。
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