ところが8年前のことだ。同僚の女性から、「だんなさん、大丈夫?」と突然言われた。何が起こったのかヒデミさんにはわからなかった。よく話を聞いてみると、
夫と社内の若い女性がつきあっているのではないかと噂になっているという。

写真はイメージです(以下同じ)
「そのときは、まさかと一笑に付しました。同僚も『そうだよね、カズヒロさんはヒデミに惚れ込んでるもんね』と言ってくれた。当時、私は地道に業績を上げてきたことが評価されて、社長から賞をもらったり、女性初の役員になるのではないかという話がちらほら出ていたんです。組織って何が起こるかわからないから、
周りの噂は信じない、踊らされないというのが私の持論。だから自分の出世のことも、夫の浮気のことも信じることなく、仕事に集中していました。周りにはいい仲間もたくさんいたので、仕事は楽しかった」
あるとき、ヒデミさんが3日間の出張に出た。出かけたその晩、電話をすると娘が出た。
「
お父さんが帰ってないと娘が言うんです。ご飯も食べてない、と。その日、夫は代休をとれるから娘のことは任せろと言ったんですよ。それなのに。あわてて母に連絡して、家に来てもらうことにしました。夫とは連絡がつかなかった」
出張を切り上げるわけにはいかなかった。まんじりともせず翌朝を迎えると、夫から電話がかかってきた。
学生時代からの親友が事故にあって瀕死の状態となり、病院にいたというのだ。
「娘に連絡くらいしてよと言ったら、『ほんっとにごめん。さっき電話した』と。その場はそれですませましたが、なんだか違和感があった。たとえ親友が事故にあったのが本当だとしても、娘の夕飯を忘れるような人じゃない。いったん家に戻るなり、私の母に連絡するなり、それくらいは頭が回るはず。おかしいと思いました」
出張から戻って出社すると、例の同僚女性が「
カズヒロさんの相手と噂されている子が、出社途中でケガをして休んでるのよ」とまたも情報をくれた。探ってみると、ヒデミさんが出張に行ったその日に、彼女は貧血を起こして駅の階段を転げ落ちてしまったという。
「問い詰めるしかない。帰宅してみると、夫はどこか不安げというか、私の目を見ようとしない。どういうことなのか、何があったのかと聞くと、日頃から親しくしている社内の後輩がケガをして、と言い訳する。『
ナナコさんね』と言ったら、夫の目がキョロキョロして。しれっと嘘をつけるタイプじゃないんですよね、悲しいことに」