「離婚しますが、会社は夫をとりますか、私をとりますか」
男女の関係があるのねと問いただすと、夫はワッと泣き出した。こんなときに泣くなよと、ヒデミさんは怒鳴りつけてしまったという。頭を打ったから心配でたまらないんだと泣きながらつぶやく夫に、ヒデミさんはそれまで築いてきた信頼感が崩れていく音を、自分の脳内で聞いていた。
「
病院に行きなさいよ今すぐ、と夫を放り出しました。それから母に連絡して、翌日からしばらく来てもらえないかと相談。次の日、会社に行って上司に洗いざらいぶちまけたんです。そして『3人とも同じ会社でこんなことがあったら、私は仕事をしていけない。
私は離婚するけれど、会社は夫をとりますか、私をとりますか』と迫ったんです。私をとるなら、夫には会社を辞めさせてほしい、と。もちろん、冷静に言いましたよ」

それまでの実績があるから、
会社はもちろんヒデミさんをとった。夫とナナコさんは辞表を提出するようやんわりと求められた。ふたりは応じたという。ヒデミさんはもちろん、離婚。共同名義で買ったマンションはヒデミさんのものとなり、結婚後の預金もヒデミさんが子どものためにともらうことになった。
「
養育費も慰謝料もいらないから、私の目の届かないところへ行ってちょうだい。夫に告げたのはそれだけです。のちに弁護士を入れて、きちんと書類も作りました。会いたいなら娘には会わせることにした。それ以上は何も望むな、と」
会社が自分を取るとわかっていたから、彼女は夫に復讐を遂げることができたのだ。その後、ナナコさんは回復。夫と、一回り以上年下のナナコさんは、地方にある彼女の実家へ「落ちのびて」いったが、今はどうしているかわからない。
「夫と親しかった同期によれば、ふたりは別れたようです。夫が東京に戻ってきているという話もありますが、私には連絡がありません」