NHK『大奥』、仲里依紗が圧巻。苦しみを全身から噴き出す叫びにドキッ
NHK男女逆転『大奥』の第6話が放送され、仲里依紗演じる五代将軍、徳川綱吉(女性名、徳子)の慟哭が響き渡った。前話で“当代きっての色狂い”として登場した綱吉だったが、その奥に苦しみを抱えて生きていた。そのことを、NHKが初導入したインティマシー・コーディネーターによって成立した激しい濡れ場が、視聴者に体感させてみせた。
父からの愛情を一切知らずに育った三代将軍家光(堀田真由)とは対照的に、綱吉は父親・桂昌院(竜雷太)からの偏愛の呪縛のもとにある。それでも、綱吉は、孟子の「易姓革命」(天子の徳が衰えれば天命も革(あらた)まるをよしとする)を大奥の中で平気で皆に読み聞かせる右衛門佐(山本耕史)に興味を持ち、御台所(本多力)に「私に譲ってもらえぬか」と切り出す。そして右衛門佐は、「大奥に入るまで知らなかったのですが」と付け加えながら、「自分は来年で御褥(おしとね)すべりの35になるのです」と告白して大奥総取締の役を手に入れる。
第6話でこの後に登場した“生類憐みの令”しかり、本パラレルワールドは、史実を非常にうまく重ねているのだが、実際の大奥の“御褥すべり”は、数え年の30歳だった。現在にも根強く残る女性30歳ボーダーの意識は、こんなところの起因もあるのだろうか?
御台所の下で言うことを聞いているようでいて、大奥総取締として大奥の権力を掌握していく右衛門佐。当然、桂昌院や側用人の柳沢吉保(倉科カナ)は面白くない。その攻防は、綱吉という目を中心にグルグルと強力に渦巻く台風のようだ。明晰な綱吉には、すべてが見えている。奔放にふるまっているようでいて、非常に冷静。しかし「韓非子」の写本の間違いをきっかけに、新たな側室として桂昌院側が用意したはずの大典侍(一色洋平)と右衛門佐が繋がっていたことに気づくと、「そなたの命など、わたしの心ひとつじゃ」と右衛門佐を、感情露わに気圧した。
世の頂点にいた綱吉の人生は、松姫の死によって狂っていったかに映るが、そうではない。綱吉、徳子は、そもそもボロボロだった。松姫の死が最後の一撃となったのだ。
将軍として生まれ、有功を慕い続ける父・桂昌院から世継ぎを生むことだけを求められ、そのためにも器量よし、イコール見た目がいいことを絶対条件とされた。それが若くして大奥に入った世間知らずな父にとっては愛情表現なのだと感じるからこそ、反発できない。そんな徳子にとって、松姫は宝だった。繁殖牝馬のような日々に違和感を覚えようと、傷を見ずに生きてこられたのは、愛する娘がいたから。その支えを失った……。松姫という光が消えた徳子は、もともとの傷と、抱えきれない大きな大きな傷を負った。そんな徳子に、桂昌院は「“松姫によう似た”かわいらしい子、もう一辺、わしに見せてくれ」と非常に残酷な言葉を投げる。怒り、諦め、悲しみ、哀れみとさまざまに移りゆく感情を映す仲の顔に涙した。
徳子は、将軍・綱吉として、化粧という仮面を身に着ける。もはや大奥は、煌びやかな牢獄だ。そして松姫の死は、右衛門佐にも変化をもたらす。知性に溢れるふたりは、だからこその不穏な出会いから始まったが、学問好きな共通点が、その関係を近づけていった。また、「種付けをするためだけに生まれてきたのか」との個人的な葛藤を右衛門佐が綱吉に漏らしたことで、一気に距離を縮めた。そこに右衛門佐の作為は感じられなかった。
綱吉を中心に、グルグルと、大奥の欲望が渦巻く
怒り、諦め、悲しみ、哀れみとさまざまな感情を映す仲の顔に涙
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