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NHK『大奥』、仲里依紗が圧巻。苦しみを全身から噴き出す叫びにドキッ

お鈴廊下の鈴が「シャン、シャン!」と心を切り裂く

お鈴廊下の鈴が「シャン、シャン!」と心を切り裂く

(C)NHK

 心を失くした綱吉は、仮面をつけて男たちの前に立ち続ける。お鈴廊下の鈴が「シャン、シャン!」と心を切り裂き、廊下の奥に綱吉が映る。本作の照明のすばらしさには前にも触れたが、第6話もすごかった。「そなたの命など、わたしの心ひとつじゃ」と右衛門佐に扇をピシャリと当てたシーンでの光と影などもそうだが、この真っ暗闇の中、花魁のごと姿でひとり孤独に涙をためて立つ姿は、ハッとするほど美しく、そして苦しかった。  続く褥の時間。綱吉は恋仲にあるふたりを呼び、目の前で「むつみ合うてみよ」と要求。ひとりが耐えられずに自らの腹を切ろうとしたとき、右衛門佐が止めに入る。そして右衛門佐が発した言葉に綱吉が反応した。  その要求は“辱め”だと。「人前でむつみ合えと言うは、辱めにございましょう」と。  さて、第6話放送時、綱吉のいわゆる濡れ場のシーンが幾度も映し出され、その激しさに「NHKでこれを!?」「挑戦的!」と話題になった。そして番組公式Twitterでは、本作が、NHKが初めてインティマシー・コーディネーター(ヌードやキス、セックスなどインティマシー(親密な)シーンにおいて、制作側の意図を十分に理解した上でそれを的確に俳優に伝え、演じる俳優を身体的・精神的に守りサポートする役割)を導入した作品となったことが説明された。

苦しみを全身から噴き出す仲と、それを受ける山本の凄さ

苦しみを全身から噴き出す仲と、それを受ける山本の凄

(C)NHK

 このいわゆる濡れ場は、綱吉の置かれた人生を私たちが実感する上で、外すことのできない描写だった。綱吉が叫ぶ。「わたしはこうして毎夜、毎夜、そなたらに夜の営みを聞かれておるではないか!」「将軍とはな、岡場所で体を売る男たちよりも卑しい、この国で一番卑しい女のことじゃ」と。視聴者も画面を通して、綱吉の夜の営みを覗き見た。そしてドキッとしたり、「これ放送していいの?」と思った人も多いのではないだろうか。ひと様に見せるべきではない「恥ずかしいこと」を見ているという考えが、どこかにあったから。それを綱吉は常にしてきたのだ。  苦しみを全身から噴き出す仲と、それを受ける山本。目の前にいたのが、右衛門佐だったから、綱吉も仮面を外せたのだろう。なぜなら右衛門佐は、綱吉の心からこうした叫びがあがっても、おそらく不思議ではなかったから。  娘として、母として、女として、将軍として苦しむ綱吉の姿は意外なものではなかった。右衛門佐にとって綱吉は、決して「すぐに立ち直らはるわ」「お好きですもんね」(by御台所&大典侍)な人ではない。それが、静かな山本の受けの芝居から伝わってくる。だから、ただ抱きしめた。しかしこの抱擁は、綱吉を掬い上げたとは言えない。綱吉を理解した右衛門佐は、ともに堕ちていくのだろうか。 <文/望月ふみ>
望月ふみ
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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