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「私は自分を男だとしか思えない」結婚後に告白したトランスジェンダー当事者、夫はどう思っている?

3月31日は、国際トランスジェンダー可視化(認知)の日です。いまを生きるトランスジェンダーの人々を祝福し、功績を称えると同時に、直面している暴力や差別について広く周知することを趣旨とし、2009年のアメリカからはじまりました。 3月31日は、国際トランスジェンダー可視化(認知)の日多くのトランスジェンダーにとって「生きやすい」とはいえないのが、いまの社会です。特にSNSなどを中心に差別や差別の煽動が多く見られる昨今ですが、すべてはトランスジェンダーの人たちが、何を思いどう生きているか、どんな障壁や苦悩があるのかを「知らない」ところからはじまっているように見えます。 ここに「佐倉イオリ」という人がいます。生まれたときに割り当てられた「女性」という性別に、性別違和を抱えたまま、これまでの人生を過ごしてきました。佐倉さんの日常は、こんなふうにはじまります。(以下、佐倉イオリさんの寄稿です)

隣に住んでいたらイヤですか?

朝8時、玄関の扉をそっと開けて、ゴミ捨て場の様子を覗く。ゴミを捨てる70代くらいの男性の後ろ姿が見える。向かいの家のお父さんだ。まいった。このままでは鉢合わせしてしまう……。思わず扉を閉じ、脳内会議をスタートさせた。ーーこのまま立ち去るまで少し待つか? いやいや、そうすると出勤時間に影響が出る。 数10秒の逡巡(しゅんじゅん)の末、観念して再び扉を開ける。ゆっくりと家の鍵をかけ、ゴミ捨て場へ向かう。のろのろとゴミをしまうご近所さんに近づきながら、なるべく顔を見られないよう帽子を深くかぶり、マスクのズレを直す。声も少しでも高く出せるように気持ちばかりの発声練習も行う。 が、結局軽く会釈だけしてゴミを捨て、駅へ向かった。 ここで簡単に自己紹介をさせていただこう。 女の子として生を受け、初恋の相手はクラスの男子、中学ではセーラー服、高校はブレザーを着て通学、地元の大学を卒業して、就職とともに上京。職場で出会った男性と30歳で結婚、その後は夫の実家で義理の両親と同居するサラリーマン(39歳)だ。
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※写真はイメージです(以下同)

ゴミの日の朝、私は小さな葛藤をしてから出勤する。別にやましいことがあるわけではない。先月、荒井勝喜首相秘書官(当時)が、性的マイノリティや同性婚に関連して「僕だって見るのもイヤだ。隣に住んでいるのもちょっとイヤだ」といった主旨の発言をして、更迭(こうてつ)された。私はその、「隣に住んでいたらイヤ」だと思われかねない”LGBTQの人”、セクシャルマイノリティ当事者なのだ。 大まかなプロフィールでは、なんの変哲もない「アラフォー女性」だ。しかしこの情報だけでは、多くの人は私が隣にいても「もしかして佐倉さんかな?」とすら思わないだろう。私、佐倉イオリという人物を伝えるには、これでは不足しているのだ。 というのも、いつもスラックスとポロシャツを着て、髪はツーブロック、声も低い。ぱっと見で、私は男性にしか見えない。自分の性別のアイデンティティは男性で、服を着た状態では男性だ。しかし、男性が好きで、制度的には女性として生活している。 そんな「男性」「女性」「トランスジェンダー」の“当たり前”の外にいるのが私だ。

自分のことだけならいいけれど

服を着た状態、というのは、身体的には女性のままだ。親がつけてくれた「○○子」という戸籍名の変更や、男性ホルモンによる治療を行っている。声変わりはしたが、外科的治療はしていないため、胸をシャツでつぶしているだけで子宮や卵巣も健在だ。ホルモン投与をやめれば生理も再開するだろう。 SakuraIori202303_01b男性ホルモン投与によって、思春期の少年のような変化が体に起こる。声変わりや、ヒゲなど体毛が濃くなったり、筋肉質になったり、だ。以前から私のことを知っていて女性と認知している人からは、老化や体質変化くらいにしか思われない。ただ漠然(ばくぜん)と違和感はあるらしく、「声めっちゃ低くなりました?」「鍛えてます?」などと聞かれることはある。 それが同僚や友人であれば「実は」と、カクカクシカジカ説明する。しかしパートナー、つまり夫絡みの人間関係となると、これがかなり怖い。
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長らく自分をセクマイ当事者だと思えなかった理由
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